病院

医事業務から生じる不正について考える(1)

医療機関で不正が減らない原因
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
これまで2回にわたり、医療機関の組織的な特徴、職員の意識、組織風土の観点から医療機関で不正が発生してしまう、不正が減らない原因を取り上げてました。

振り返れば、これまで数多くの監査やコンサルティング業務等で医療機関に関わってきた中で、不正行為による懲戒事例を幾度と目の当たりにしてきました。いつも驚くのが「まさかあの人が・・・」という予想外の職員が不正に手を染めていたということです。過ちが発覚した際、不正を犯した職員の印象を尋ねられた同僚が「真面目で、おとなしく、仕事に手を抜く人ではない」などと語るインタビューが報じられることがありますが、まさに同じような光景がよくあったのです。そのような過去を思い出しながら、今回から、医療機関の業務内容ごとに書いてみたいと思います。
今回は医事業務から生じる不正について考えます。

医事業務は、診療費の計算、保険者及び患者に対する診療費の請求、入金管理、未収金の回収管理が主な業務になります。「病院職員になったらまずは医事課を経験しないと」と言われるほど、医療機関にとっては売上を管理する重要な業務の1つです。同時に、専門性も高くなるため、定期的な人事ローテーションも難しく、医事課の職員は特定の業務が長期間にわたって集中してしまい、職員の相互牽制が働きにくいという特徴から不正が発生するリスクが高い部署の一つです。医事課は同時に現金の収受を最も多く行う部署であることから、私たち監査人の立場からもやはり医事管理プロセスは内部牽制が十分に働いているのか、注目する領域です。
では、どのような方法により不正が行われやすいのか、実際の不正事例をもとに考えてみたいと思います。

①外来窓口の収受処理
外来患者の精算情報を改ざんし、現金と収入データを同時に操作することで窓口現金を着服する方法です。外来患者が窓口にて精算後、会計データ等を修正あるいは削除すると同時に、変更した差額を抜き取るという方法です。窓口にて精算し、領収証を受け取った外来患者は、当然に支払いが完了していることから違和感を覚えることはありません。不正を働いた担当者は、精算後、医事会計データの修正や削除を行い、現金有高とデータ上の収受額を整合させることにより、日次締めデータでの違算がなかったとして処理します。
この方法は、現在の医事会計システムではPOSレジとも連携し、かなり防ぐことが出来るようになっていると考えられますが、この不正を防止する方法としては、①医事会計データの修正・削除ログを確認し、不正の疑いがある修正等の有無を確認する、②修正・削除する権限自体を上席者のみに限定する等が考えられます。しかし、日次締め後に医事課長自ら不正操作をした場合には、発見が遅れることに加え、不正による損害額が大きくなる傾向があります。人事ローテーションや経理課を含めた複数による日次締め業務への関与による牽制、医事システムの権限設定という複数の防止発見コントロールを組み合わせて対応する必要があります。

②預り金の精算
医療機関が患者より預り金を受け取る場面としては、1つ目に診療費が計算できない時間外での対応時、2つ目に入院患者に対し、入院診療費の一部を預り金として収受する場合があります。特に不正になりやすいのが1つ目の時間外診療の場合です。時間外での対応となった場合、時間外窓口で請求金額の計算ができないため、患者さんから一定額を現金で預るとともに預り証を発行し、翌日以降に再度来院した際に清算する方法をとられている医療機関は少なくないと思います。この時間外の預り金が簿外、あるいはエクセルなどの簡易な方法で管理されると正確な預り金残高は把握できません。特に、時間外診療を受ける患者は遠方の患者なども多く、後日、精算に来ることもないケースもあることから、預り金が長期未精算となると、仮に横領が発生してもその顛末がわからなくなってしまいます。
この不正を防止するには、①預り金残高を会計データに適時に反映させ、常に残高を負債として把握する、②翌日以降の診療費の計算後、預り金だけでなく医業未収金も計上し、未精算残高であることを明確にする、③長期未精算となっている預り金の状況については医事課だけでなく、経理課その他部署とも共有し、医事課単独で預り金の処理が出来ない業務フローを整備する――などが考えられます。

今回は2つの事例を記載しました。皆様の医療機関でも心当たりはありませんか?次回も引き続き、医事業務から生じる不正について考えてみたいと思います。


【2022. 10. 1 Vol.553 医業情報ダイジェスト】