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医事業務から生じる不正について考える(2)

医事業務から生じる不正について考える
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
前回は、医事業務から生じる不正として、①外来窓口の収受処理による事例、②預り金の精算による事例からその手口と防止策について考えてみました。
改めて、三重県南伊勢町の町立南伊勢病院の口座から診療費を着服したとして、元町職員が業務上横領の疑いで逮捕された件は、皆様の記憶にも新しいと思います。この事件、元町職員はどのようにして診療費を着服したのか、その手口までは公表されていません。私見ですが、病院規模から事務体制が「元町職員が診療報酬の請求回収に関する情報と経理処理に関する情報を同時に操作できる立場にあった」ことが問題ではないかと考えます。
具体的には、診療報酬の請求回収に関する医事情報を操作すると共に、入金消込に関する情報を同じ職員が操作できる立場にあれば、容易に辻褄を合わせることは可能です。
最近でも、他の医療法人に事業譲渡されることが予定されていた小規模の医療法人の財務調査を進めようとしたところ、長年に渡り会計事務所から出向していた会計担当職員が突然、退職してしまったことがありました。その担当職員があらゆる事務を管理していたため、引継もなく残された職員は困っておられましたが、それほどまでに焦って退職する状況は、なにかしらの不適切な事務処理が行われていたのではないかと疑念を抱かせる状況でした。

今回は、特に職員数が少なく、管理が手薄になりやすい小規模な医療法人・クリニックで起こりやすい医事業務から生じる不正について考えてみたいと思います。
①未収金の回収業務
未収金の管理業務と経理業務を同一の担当者が行う場合、以下の3つの不正が起こりやすい環境にあります。
  •  患者から直接回収した未収金の一部を着服した上で、医事会計システムに計上されている未収金は回収不能として貸倒処理を勝手に行ってしまう
  •  入院費について医療費に過誤があったとして請求の取り消し処理を行った上、患者への返金と見せかけて現金を引き出してしまう
  •  医事課長が自ら医事会計システムを操作して未収金の取り消し処理を実施する

この程度の不正と思われるかもしれませんが、小規模な医療機関であればあるほど不正の発見が遅くなりその金額が多額となるケースが多いです。担当者に対し目を光らせるだけでなく、たとえ小規模でも複数人によるチェック体制とする、経営者による抜き打ちチェックをしてみるなど、「無関心」な状況を作らないことが最も有効な防止策となります。

②預り金のトラブル
前回は、時間外対応時の一部診療費の預かり、入院時の診療費の前金としての預かりから生じる不正を考えましたが、今回は車いすや松葉杖など、備品貸出の保証金としての預り金、入院患者からの求めに応じて預かった生活費等から生じる不正について取り上げます。
医療機関では、備品貸出の保証金と称して一定額を患者から預かる方法を採用している事例があります。備品貸出時に保証金として一定額を患者より預かり、患者に対しては預り証を発行する。返却時には預り証を回収し、保証金を返還するシンプルなやりとりですが、この管理がルーズになりがちであり、担当者任せにすると、結果として預り金残高が不正確となるケースがあります。この問題を防止するためには、管理ルールを明確にしたうえで、預り金を帳簿上に反映させることで預った現金を明確にする方法が一般的です。処理の煩雑さから帳簿処理を省略したいとする意見もありますが、不正防止の観点からは導入することが望まれます。

最後に、入院患者からどうしても依頼されて、ということで現金や通帳等を病棟で預ってしまうケースを時々目にします。精神科病院では、業務として残高管理など徹底された管理を設けていますが、一般病院でこのような事例があると、例外として曖昧な取り扱いにしがちです。まずは、責任が持てない資産を預かることは避けるのが第一ですが、昨今では患者の事情から仕方なくというという声も聞きます。その際には、不測の事態を避けるためにもルールや仕組みを設けることが重要です。

小規模な医療法人やクリニック等では職員も少ないため、請求業務と経理業務を同一の担当者が担うことは少なくはありません。仕方がないことかもしれませんが、後から大変なことになる前に、経営者がしっかりと目を光らせることは不正防止の牽制機能を働かせるためには大事なことです。


【2022. 11. 01 Vol.555 医業情報ダイジェスト】