病院・診療所
デフレからインフレへの転換で病院経営が危機
診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高
■ 労働集約型産業の病院では必要な部署の人員は増やす
病院は多くの人を必要とする 「労働集約型産業」 であり、そのために人件費比率も50〜60%と高い。一方、他業種の業種別の人件費比率は、中小企業庁による 「2022年(令和4年)中小企業実態基本調査」 では飲食サービス業(宿泊業含む)38.0%、製造業20.8%、情報通信業31.6%、小売業13.0%、卸売業6.8%と病院に比べると低い。
リストラによって業績回復した他産業から転職した事務管理者が、経験則で医師、看護職員、メディカルスタッフ等を施設基準上のギリギリまで減らす方針を提案することは多い。ただし、 「売り手市場で労働の流動性が高い」 (転職しやすい)職種では残った職員の退職による負の連鎖が生じるリスクが高い。これが、採用にあたって職員を選別できていた 「買い手市場」 産業から転職した管理職には理解できない。
病院経営と医療の質担保のために、 「費用」 ではなく 「原価」 に当たる必要な職種の職員は逆に増やさないといけない。とくに2024年改定の急性期一般入院基本料等に加算できる 「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」 や 「地域包括医療病棟入院料」 の創設でさらにその傾向は強くなった。ともに病棟ごとに専従(1人は専任でも可)のリハビリ職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)2名以上が必要で、365日リハビリ実施が大前提であり、専任の管理栄養士1名の配置も必要になる。これらの要件をクリアできなければ職員を増やす必要がある。もちろん、一定の職員数以上に増加した場合は余剰人員となる。
リストラによって業績回復した他産業から転職した事務管理者が、経験則で医師、看護職員、メディカルスタッフ等を施設基準上のギリギリまで減らす方針を提案することは多い。ただし、 「売り手市場で労働の流動性が高い」 (転職しやすい)職種では残った職員の退職による負の連鎖が生じるリスクが高い。これが、採用にあたって職員を選別できていた 「買い手市場」 産業から転職した管理職には理解できない。
病院経営と医療の質担保のために、 「費用」 ではなく 「原価」 に当たる必要な職種の職員は逆に増やさないといけない。とくに2024年改定の急性期一般入院基本料等に加算できる 「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」 や 「地域包括医療病棟入院料」 の創設でさらにその傾向は強くなった。ともに病棟ごとに専従(1人は専任でも可)のリハビリ職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)2名以上が必要で、365日リハビリ実施が大前提であり、専任の管理栄養士1名の配置も必要になる。これらの要件をクリアできなければ職員を増やす必要がある。もちろん、一定の職員数以上に増加した場合は余剰人員となる。
■増やすべき部署はまず自院のビジョンありき
診療・治療・看護のサービスを直接提供する必要な人員を増やすことは人件費の増加につながっても、それ以上に収入を増やすことができれば、 「人件費÷医業収益」 で計算される人件費比率割合は相対的に下がる。その証拠に病院機能に関係なく、トップランナーで利益が出ている病院における100床当たりの職員数は多い。急性期病院の人件費比率は50%が理想、ケアミックス病院では55%、療養型・精神科単科病院では60%が目安とされている。人が最も多い急性期病院の人件費比率が低いのは分母の医業収益が高いためだ。
一方、 「医療材料費」 は、高額な薬剤や医療材料等を使う急性期が最も高い。多くの病院では分子の人件費が高いのではなく、人員配置に対して分母の医業収益が低いことが多い。つまり、配置されている 「職員1人当たりの労働生産性が低い」 とも言えるわけだ。
いずれにしても多くの人を必要とする 「労働集約型産業」 の病院においては、収入を上げるためには、常に50%〜60%の人件費に相当する必要な部署の人員を戦略的に増やさないといけない。 「必要な部署」 はどこか聞かれるが、それは病院のビジョン(あるべき姿)を達成するために戦略的に増やさないといけない部署である。
一方、 「医療材料費」 は、高額な薬剤や医療材料等を使う急性期が最も高い。多くの病院では分子の人件費が高いのではなく、人員配置に対して分母の医業収益が低いことが多い。つまり、配置されている 「職員1人当たりの労働生産性が低い」 とも言えるわけだ。
いずれにしても多くの人を必要とする 「労働集約型産業」 の病院においては、収入を上げるためには、常に50%〜60%の人件費に相当する必要な部署の人員を戦略的に増やさないといけない。 「必要な部署」 はどこか聞かれるが、それは病院のビジョン(あるべき姿)を達成するために戦略的に増やさないといけない部署である。
■ 求められるのは過去踏襲型ではなく未来志向型経営
これまで急性期病院での人件費比率は50%以下が理想とされていたが、患者1人あたり年間数百万円、場合によっては1千万円超の抗がん剤や血液凝固因子製剤等の使用も多くなった。それらが多い病院では薬剤費(医療材料費)が大きく向上して収入は増加するが、薬価差益はほとんどないため経営的には厳しくなってしまう。百分率なので医療材料費が上がると、相対的に人件費率は40%台になるが、利益は全くでない高機能ながん拠点病院が続出している。
A病院(550床)は血液内科を得意とするがん拠点病院であり、まさしくその状態である。化学療法患者の増加にともなって材料費比率が21年31.6%→22年35.0%→23年38.1%と激しく上がっている。血友病の患者で1件1,000万円を超えるレセプトも多く、そのほとんどが薬剤費であり、薬価差益もほとんどないため、同院事務部長いわく 「鵜飼の鵜」 である。相対的に人件費比率は21年50%→22年47.5%、23年はなんと45.2%まで低くなったが、2023年はコロナ補助金も少なかったため、経常利益は赤字に転落した。本年度はさらに厳しくなっている。
A病院のように高額薬剤が多くて材料費比率(変動費)が高い高度急性期病院は、病院経営指南書にあるような 「急性期は人件費比率50%、材料費比率20%」 というセオリーはもはや通用しない。同院では 「労働分配率」 という 「人件費÷限界利益(粗利)」 で算出している。 「限界利益」 とは 「売上高− 変動費」 になる。民間病院の労働分配率は70%くらいが目安であろう。
病院経営を取り巻く環境は、診療報酬改定や医療計画等で5年経ったら大幅に変わるため、経営側は常にバージョンアップしていく必要がある。 「ルールが変わったら戦い方を変える」 のは当たり前のことである。これからの病院経営に求められるのは過去踏襲型経営ではなく、未来志向型経営になるが、現在のインフレ経済による物価高と人件費の高騰は個々の病院の経営努力ではどうすることもできない状況となっている。
【2025. 3. 1 Vol.611 医業情報ダイジェスト】
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