組織・人材育成
「職員に求めること」を振り返ってみる
職員の成長に期待するリーダーの思い
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
私のお客様をはじめ医療の現場でリーダーを務める皆さまは、勉強熱心で新しい学びに貪欲な方が多くいらっしゃることを感じています。学ぶ内容は様々ですが、その目的は自分の組織がより良くなることはもちろん、日本全国の医療をより良くしたいという思いであり、いつもその熱意に 「もっともっと学ばないと」 と私も心を動かされています。しかし、スタッフに目を向けると、自分の置かれた環境に対する不平不満に意識が強く 「視野が狭い」 と感じることに悲しい気持ちになるリーダーも少なくないようです。今回は、職員の成長に期待するリーダーの思いと、現在職場で起こっている出来事を振り返ることで気付きを得たリーダーのお話を共有いたします。
ケース
都内近郊の住宅街にあるクリニックのお話です。このクリニックはリーダーの他6名のスタッフで運営されています。院長先生は非常に勉強熱心で、多業種での経営勉強会や交流会によく参加し、広い視野を持ち続けたいと考えています。
このクリニックの課題はスタッフが育たないこと、と院長先生は語ります。
院長 「開院当初はスタッフが根付かず苦労しましたが、少しずつ定着することで医療の質も徐々に上がってきました。ところが、最近ライフスタイルの変化からやむを得ず退職するスタッフが続き、新人さんが2名入職したのです。仕方が無いことですが、この新人さんがベテランスタッフのように動くことができなくて……少数精鋭のクリニックなので困っています。ベテランスタッフにも私のイライラが伝わっているのか、今まではなかったベテランスタッフとの溝さえ感じられるようになってしまいました」
筆者 「それは困りましたね。新人さんは入職してどのくらい経ちましたか?」
院長 「3か月ほどです。ベテランスタッフが新人教育を担当し、どのようなスキルが必要なのかというマニュアルも作成し、分からないところは聞くように指導しているようです。ベテランスタッフからは 『もう少し時間がかかりそうですね~』 と聞いていますが、どうにかならないものかと……。分からないところを聞いてほしいし、自分から積極的に学ぼうという姿勢がほしいんです。ベテランスタッフももっと積極的に教えてほしいのですが……」
筆者 「そうなのですね。何か対策されたことはありますか?」
院長 「対策と言えるかは分かりませんが、朝礼で新人さんだけではなくスタッフ全体に 『自分がどう動いたら成長できるのか考えて行動してください』 『分からなければ聞いてください』 という声掛けを積極的に行うようにしています」
筆者 「その声掛けの効果はいかがですか?」
院長 「効果は……あまりありませんね」
筆者 「人は言ったら動くのではなく、動きたいときに動くようです。院長先生の文言を振り返ってみましょう。今考えてみると、院長先生が声を掛けることによってスタッフが動かなかったのはなぜだと思いますか?」
院長 「おっしゃるように、動きたくなかったからではないでしょうか(笑)」
筆者 「同じ言葉を使っていても、ある人なら言うことを聞こうと思うけど、別のある人はそうは思わないというケースもあると思いますが、このことはどう思いますか?」
院長 「(しばらく考えて)……もしかして私に対して何か思うところがあるのかもしれませんね…」
しばらく考えた後、院長先生はベテランスタッフの人のところへ行き 「私は何か気が付いていない点があるかもしれない」 とつぶやいたのでした。
スタッフ 「とてもじゃないですが、3か月で一通りの業務を把握するのは難しいと思いますよ。私たちがクリニックに入った頃よりもさらにやるべき業務内容は増えているのを院長先生は気が付いていますか?それなのに 『まだ〇〇できていないの?』 と責めるような言葉しか使わず、あとは 『自分たちで考えろ』 とは、あまりに乱暴ではありませんか?同じことを私は何度も伝えているつもりでしたが、院長先生は聞いていなかったのですね」
院長 「私は相手に求めるばかりで自分の言動が要因である可能性を1ミリも考えていなかったことに気が付きました……。確かに、開院当時よりもやるべき業務は増えていますし、イレギュラー対応も多くなっています。今どんな状態なのか、冷静に判断していませんでした。視野が狭かったのは自分だったのですね」
このケース、どのような感想を持ちましたか?誰でも自分の立場で物事を見ており、特にリーダーという立場では 「全体を見渡せている」 という感覚を持つ方は多いように感じます。しかし、それはあくまでもリーダーという立場から見た全体像であって、現場で何が起こっているかはそれぞれの立場から物事を見なければ分からないものです。 「視野を広く持ってください」 と話しているリーダーの方は多いですが、実際には自分に対して問いかけた方が良いパターンもあるのではないでしょうか。
このケースが、皆さまがより良い組織を目指すための参考になれば幸いです。
【2025. 2. 15 Vol.610 医業情報ダイジェスト】
このクリニックの課題はスタッフが育たないこと、と院長先生は語ります。
院長 「開院当初はスタッフが根付かず苦労しましたが、少しずつ定着することで医療の質も徐々に上がってきました。ところが、最近ライフスタイルの変化からやむを得ず退職するスタッフが続き、新人さんが2名入職したのです。仕方が無いことですが、この新人さんがベテランスタッフのように動くことができなくて……少数精鋭のクリニックなので困っています。ベテランスタッフにも私のイライラが伝わっているのか、今まではなかったベテランスタッフとの溝さえ感じられるようになってしまいました」
筆者 「それは困りましたね。新人さんは入職してどのくらい経ちましたか?」
院長 「3か月ほどです。ベテランスタッフが新人教育を担当し、どのようなスキルが必要なのかというマニュアルも作成し、分からないところは聞くように指導しているようです。ベテランスタッフからは 『もう少し時間がかかりそうですね~』 と聞いていますが、どうにかならないものかと……。分からないところを聞いてほしいし、自分から積極的に学ぼうという姿勢がほしいんです。ベテランスタッフももっと積極的に教えてほしいのですが……」
筆者 「そうなのですね。何か対策されたことはありますか?」
院長 「対策と言えるかは分かりませんが、朝礼で新人さんだけではなくスタッフ全体に 『自分がどう動いたら成長できるのか考えて行動してください』 『分からなければ聞いてください』 という声掛けを積極的に行うようにしています」
筆者 「その声掛けの効果はいかがですか?」
院長 「効果は……あまりありませんね」
筆者 「人は言ったら動くのではなく、動きたいときに動くようです。院長先生の文言を振り返ってみましょう。今考えてみると、院長先生が声を掛けることによってスタッフが動かなかったのはなぜだと思いますか?」
院長 「おっしゃるように、動きたくなかったからではないでしょうか(笑)」
筆者 「同じ言葉を使っていても、ある人なら言うことを聞こうと思うけど、別のある人はそうは思わないというケースもあると思いますが、このことはどう思いますか?」
院長 「(しばらく考えて)……もしかして私に対して何か思うところがあるのかもしれませんね…」
しばらく考えた後、院長先生はベテランスタッフの人のところへ行き 「私は何か気が付いていない点があるかもしれない」 とつぶやいたのでした。
スタッフ 「とてもじゃないですが、3か月で一通りの業務を把握するのは難しいと思いますよ。私たちがクリニックに入った頃よりもさらにやるべき業務内容は増えているのを院長先生は気が付いていますか?それなのに 『まだ〇〇できていないの?』 と責めるような言葉しか使わず、あとは 『自分たちで考えろ』 とは、あまりに乱暴ではありませんか?同じことを私は何度も伝えているつもりでしたが、院長先生は聞いていなかったのですね」
院長 「私は相手に求めるばかりで自分の言動が要因である可能性を1ミリも考えていなかったことに気が付きました……。確かに、開院当時よりもやるべき業務は増えていますし、イレギュラー対応も多くなっています。今どんな状態なのか、冷静に判断していませんでした。視野が狭かったのは自分だったのですね」
このケース、どのような感想を持ちましたか?誰でも自分の立場で物事を見ており、特にリーダーという立場では 「全体を見渡せている」 という感覚を持つ方は多いように感じます。しかし、それはあくまでもリーダーという立場から見た全体像であって、現場で何が起こっているかはそれぞれの立場から物事を見なければ分からないものです。 「視野を広く持ってください」 と話しているリーダーの方は多いですが、実際には自分に対して問いかけた方が良いパターンもあるのではないでしょうか。
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