組織・人材育成

経験0年の賃金水準の傾向と若い人材確保に向けた賃金対策

賃金のあり方を見直す必要性
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
人件費比率が50%を優に超える労働集約型産業の病院において、人材の確保は最も重要であることは言うまでもありません。特に、少子高齢社会において、若い労働力人口が年々減少しつつある中、今までは、新卒や若い人材の採用が十分できていた大病院からも、賃金の見直しに関するご相談が増えてきました。
そこで今回は、民間の賃金調査機関の3年間の経験0年の賃金水準の推移を確認し、若い人材確保に向けた賃金対策について考えます。

経験0年の賃金水準の推移

医療経営情報研究所が、1991年から毎年行っている 「病院賃金実態調査」 の2022年から2024年までの経験0年の主な職種の賃金調査を比較したものを表にしました。看護師、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、事務短大卒の所定内賃金を並べています。ちなみに、所定内賃金とは、所定労働時間に支払われる賃金・手当の合計であり、簡単に言えば、毎月決まった金額が支給される賃金です。
2024年の調査結果の特徴としては、多くの職種において、経験0年、すなわち、新卒の所定内賃金や基本給の額が前年調査を上回っている点です。この調査結果と、最近弊社に若い年代の賃金を早急に改善したいと多くの病院からご相談をいただいている状況から、この数年、若年層の賃金改善に取り組む病院が増えているものと推察します。
最近、ご相談をいただいた大病院の賃金水準を調査すると、確かに、若い年代の基本給や所定内賃金の水準は、統計数値と比べてかなり低い傾向にあるため、新卒の応募者が減っている原因は賃金であることが推察できます。しかし、このような病院では、徐々に賃金水準が上がっていき、年齢の高い所の賃金水準は高い傾向にあるのです。さらに、賞与支給額を含めた年間賃金で見ると、統計数値と比べて高い水準を示しており、総合的に見れば、初任給や若い年代の賃金は低くても、毎年の昇給額が高く、賞与や退職金制度が整備された大病院のほうが、処遇として優れており、安定した生活が送れることは間違いありません。
しかし、今の若い人たちは、終身雇用を望んではおらず、転職を重ねてキャリアを積んでいこうと考えていることからすれば、将来、頑張れば賃金が上がるとか、高い退職金がもらえるといったことは、処遇における魅力にはなっていないのだと思われます。最近の若者は、就職時の賃金が高い所に目が行く傾向にあると、何人かの人事担当者からお聴きするので、処遇の魅力は、そこにあるのでしょう。

若い人材確保のためには賃金のあり方を見直す必要がある

これからの賃金対策として、同程度の人件費を負担するのであれば、若い人に喜ばれるような賃金体系に見直す必要がありそうです。すなわち、若い年代の基本給や所定内賃金を引き上げて、昇給額や賞与は抑えるような体系にすべきでしょう。すでに検討に取り組んでいる職員数2,000名の法人では、初任給を3万円近く持ち上げ、昇給額は3~4割下げ、退職金も3割以上減額するような賃金体系の変更を行うべく、検討を進めています。すなわち、退職金の原資を基本給のほうに回して、若い年代の賃金に魅力を持たせ、若い人材を獲得しようというわけです。
また、別の法人では、下位等級の部分だけ賃金改善を行うとか、初任時調整手当という形で、勤続10年位までの賃金水準を持ち上げるという対策を検討しています。さらに、別の所では、今年から賞与の支給月数を減らし、それを原資として賃金改善手当を新設し、所定内賃金を持ち上げたところもあります。この対策は、若い人材確保という面と、毎年引き上げられ、時給1,500円を目指すという国の最低賃金引き上げへの対策として、将来の最低賃金額をカバーするために、所定内賃金を引き上げたことになります。
病院経営が好転しない中、人材を確保できなければ一層経営が厳しくなることが想定されるわけですから、早い時期に、可能な限り人件費増を抑えつつも、月額賃金、特に若い年代の賃金をどのようにして上げていくかを考えていく必要があります。不利益変更になる人が出ないように、賃金を見直すには、時間を要します。したがって、近い将来を見据え、速やかに賃金体系の見直しに着手すべきでしょう。
最近の賃金調査の結果からは、これらの検討が進められていることが感じられます。

表:経験0年の所定内賃金の推移(単位:円)



【2025. 2. 1 Vol.609 医業情報ダイジェスト】