組織・人材育成

夜勤者がいない…!

仕事に意味づけをする機会を持つこと
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
2025年が感染症の拡大とともにスタートし、忙しい日々を送られている医療機関は多いと思います。感染症の蔓延によって、職員の方の勤務調整に苦慮される組織も多いのではないでしょうか。通常でも家庭の事情などによりやむを得ず勤務状況に制限があるスタッフの方もいらっしゃると思います。一方で、人材不足に悩みつつも、「こういう働き方でなければ働きたくない」という職員の強い意向をマネジメントにそのまま反映するわけにはいかない経営者の苦悩を耳にする機会も少なくありません。今回は、職員の意向と在りたい医療の姿の実現のために取り組む医療機関のリーダーのお話を共有いたします。

ケース

東北にある有床クリニックのお話です。このクリニックの周りは高齢化が進み、働き手となる職員はいないがニーズは強くある病床の維持に苦慮しています。その理由は「夜勤」です。
もともとは小さな規模の病院でしたが、病床の低稼働と職員数の減少を受け、10床ほどのクリニックに移行しました。現在は主に緩和ケアや在宅医療のバックベッド、看取りなどの入院患者を受け入れています。このクリニックの院長先生が最近頭を悩ませているのが、看護職員からの 「夜勤は嫌だ!」 という訴えの強さです。

院長先生 「高齢化が進む地域なのですが、最近若い看護師Aさんが入職してくれました。Aさんは大きな病院で勤務されていたのですが、忙しい業務と人間関係に疲れてしまったようで、うちのクリニックで働くようになりました。他の看護師さんたちは60歳前後がほとんどなので、とっても活気が出ると期待していました。
うちは有床クリニックなので当然夜勤があります。Aさんは正職員なので夜勤も入ってもらう約束だったのですが、入職して3か月経ったある日 『夜勤に入りたくないんです』 と看護管理職者に訴えたのです。看護管理職者は驚いて院長である私に相談がありました。 
どうもAさんの話を聞くと 『夜勤は体の負担が大きい』  『看護師は1人しか夜勤にいない(他に補助者が1人いるが)から責任が重い』 とのことで『このまま夜勤に入れられるのであれば辞めます』とまで主張しているのです。Aさんに夜勤ができないような持病があるわけではありません。うちのクリニックでは60歳を超えた看護師も夜勤をしており、Aさんは他のスタッフともぎくしゃくし出しているようです。どうしたらよいのか看護管理職者と頭を悩ませています」

そこで、看護師を集め 「看護師としてなぜ夜勤が必要なのか」 を題材に勉強会を行うことになりました。

筆者 「WEB上で 『看護師』  『夜勤』 で検索をかけるとネガティブな情報ばかり出てきます。 『夜勤をしないでよいことが条件の求人』 という文言まであり、まるで夜勤が悪いもののような印象を与える情報が蔓延しています。確かに、夜勤は人数が少ない中で業務をこなさなければならない大変さや、体内時計とは違った動きをする体の負担感という面は事実です。しかし、今の医療体制で入院患者さんがいる中で看護師がいないことはあり得ないということは納得いただけると思います(将来的に看護師が常時いなくとも対応できるような仕組みができる可能性はゼロではなかったとしても)。そして、日勤の患者さんの様子と夜勤の患者さんの様子が異なることも経験上知っておられると思います。
夜勤のメリットとして 『キャリアアップ・スキルアップ』 という文言が簡単に使われることがありますが、その言葉以上に夜勤は 『日常の中で非日常のトレーニングができるこれ以上ない環境』 だと私は考えます。ただ単に 『何もなく業務が終わった~』  『忙しくて大変だった~』 ではなく、 『こういう工夫ができていたから人数が少なくても業務が滞りなく終えられた』  『次に同じ状況にならないように〇〇な工夫ができると思う』といった具合に、夜勤での経験を業務改善のために活かせるということです。夜勤を経験していない人に、このようなリアリティのある業務改善の検討は難しいと思います。このことを踏まえて、夜勤についてどう思われますか?」

Aさんを含めた看護職員から「夜勤のことをそのように考えたことはなかった」と、たくさんの意見が出てきました。60歳を超えるベテラン勢からは「夜勤は当たり前に必要な業務だと思っていたからÅさんのような意見を考えたことがなかったが、今はそういう考えの人がいることを知ることができて良かった。頭ごなしに否定してしまっていた自分に気が付いた」という意見や、Aさんからは「周りの友人が『夜勤は嫌』と言っていることに流されていたかもしれな。
夜勤が自分にとってどんな意味があるかなんて考えたことがなかったし、先輩たちの感覚はおかしいと思っていたけど、夜勤には意味があるんだと少し受け止められるようになった気がする」という感想が聞かれました。
実は業務改善について検討をする機会もなかったというこのクリニック。この勉強会以降、業務改善を含めてベテラン勢と新人さんの対話の機会を定期的に作ることになったのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか?夜勤だけではなく、人気はないが必要な業務はたくさんあると思います。ただ業務をこなすのではなく、自分たちの仕事に意味づけをする機会を持つことで、職場の雰囲気がより良くなっていくこともあるようですよ!


【2025. 2. 1 Vol.609 医業情報ダイジェスト】