診療所

購買業務から生じる不正について考える

購入業務側から生じる不正について
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
今回は、業務領域を変えて、購入業務側から生じる不正について取り上げます。

経営者や事務局長からみて、職員の中でも購買担当に適任と考えるメンバーのイメージは少なからずあるのではないでしょうか。診療材料や医薬品の購入であれば、業者としっかりと交渉を進められ、より安価な調達を実現してくれそうな職員、医師をはじめとする様々な職員の要望を整理し、購入すべき物品等を絞り、無駄な在庫を作らない意識が持てそうな職員など、医療機関の購買部門の担当職員としてどのような動きをすべきかをよく理解している職員に購買を任せたいと誰しもが思うはずです。

一方で、このようなノウハウを職員が培うまでにはそれなりの年月が必要であることも事実です。そのために、職員の人事異動が行われることなく、長い期間にわたり同じ職員が購買担当を続けることも少なくないのではないでしょうか。
 監査などで医療機関の購買担当の職員にヒアリングしますと、長年にわたり購買を担当しているとお話される場面に遭遇することも少なくありません。監査側の立場からすると、「なぜこの方はこれだけ長い期間購買を担当しているのだろうか」「不正に関与していないだろうか」とついつい気になってしまいます。

ご存じのとおり、医療機関には様々な業者が出入りします。診療材料や医薬品だけでも様々なメーカー、卸業者が少しでも取引を拡大したいと考え、医師や薬剤師だけでなく、購買担当職員にも近づいてきます。私たち監査側から見ても、業者との間に不適切な関係がないだろうか、その兆候となるような動きはないかと気になってしまいます。「〇〇さんがメーカーの担当者と飲みに行ったらしい」「先日、事務局長が取引先の支店長からスポーツ観戦の接待を受けたみたいです」。
事実、こんなうわさ話を監査中に耳にすることもあります。

まず、経営者には、「医療機関の購買担当には、それなりの強力な権限がある」ということを改めて認識することが重要ではないでしょうか。医療機関には、大小様々な購買機会があります。一般消耗品から医療機器・設備まで購入する機会があり、それぞれに取引業者が複数存在します。単純に相見積もりのつもりで見積依頼した業者であっても、担当者によってはどうしても当社から買ってもらいたい、当社と取引をしてもらいたいと様々なアプローチをしてきます。そこには、必ずしも透明性が確保されたやり取りが常に行われているとは限らないと認識し、購買取引に対して一定の警戒感を持つことが重要です。

購買担当の職員も、最初は気持ちを引き締めて対応していたものの、担当が長期化するとそれだけ取引業者との不適切な関係が深まり、公正な取引がいつの日か出来なくなってしまう可能性も十分あります。これまで監査で経験してきた中で、購買取引に「怪しい」と感じ、結果として不正が発見された(兆候が確認された)事例もあります。

例えば、取引の見積書や契約書を見ると、医療機器購入時にいつも同じ卸業者を連れてきている担当者がいました。周囲からも、特に安く調達出来ているとは思えないし、サービスもそこまでよいとは思っていないとの意見もありました。そして、いつしか担当者のご子息がその卸業者に就職されたと聞かされたことがあります。

また、病院等で採用されている院内物流管理システム(SPD)を一部だけ導入している法人がありました。このシステムを全面導入すれば、購買管理が一元化されるのになぜ特定の業者だけSPDの対象外にするのだろうと疑問に感じていたところ、購買担当と業者との癒着が疑われる関係が確認されたこともあります。

購買業務から生じる不正を防ぐためには、やはり基本なことになりますが①担当職員のローテーションを定期的に実施する、②業務を1人きりで任せない(必ず誰かの目が入るような仕組みを設ける)ことが重要なポイントになると思います。そして、経営者や管理者層も購買業務に目を光らせているという牽制こそが不正を防止するための最大のポイントになるのではないでしょうか。


【2022. 12. 1 Vol.557 医業情報ダイジェスト】