診療所

クリニックの経費見直しの視点

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で開業7年目の内科クリニックの院長から「開業以来、経費を見直しておりませんでした。経費の見直しの視点を教えてください」というご相談をいただきました。

【回 答】

クリニックの経費の見直しについてご相談を頂く機会が増えています。経営環境が良好な時代に開業したクリニックでは、現在の相場より高額な経費を支払っているケースが多くあります。また、必要な経費はその時々に応じて異なってくるため、定期的に各種経費の見直しをすべきなのですが、そこまでしているクリニックは多くありません。そこで、今回は人件費以外の経費で地代家賃や広告宣伝費、保険料、機器の保守料などの経費見直しの視点を紹介いたします。
 
視点1.保険の目的と効果を再確認し見直す
生命保険や損害保険のコスト見直しですが、クリニックの院長は、保険会社の営業担当者に勧められるままに、必要以上に多額の保険に加入してしまいがちです。月に数十万円、多いと100万円を超す保険料を支払っているところもあります。
保険料の見直しでは加入の目的と保険商品の内容が合致しているかを最初にご確認ください。例えば、医療法人で退職金の原資確保を目的として加入している保険の場合、解約返戻金のピークをすぎていないか、今後、保険料を払い続けることで目的を達成できるのかなどを検証していただきたいと思います。退職時期が予定より遅くなっていて解約返戻金が急減して退職金の原資にならないケースもありますので、注意が必要です。このほか、所得補償保険については保険料が保険会社によって異なるので、一度複数の会社の保険料をご確認いただくことをお勧めします。

視点2.賃料は周辺相場に基づき見直し交渉する
クリニックの建物の賃料は、建物の築年数がたてば下がることが多く、15年経過で10%程度下がるケースもあります。しかし、不動産会社から賃料の引き下げを打診してくることはありません。そこで、周囲で築年数や建物のタイプ、床面積が同程度の物件の賃料を調べ、それを材料に家主と価格交渉をすることをお勧めいたします。賃料の相場は、不動産会社でも簡単に入手できますし、インターネットでも「賃料相場」などで検索すれば、ある程度情報を集められるので交渉にあたり十分な情報を集めていただきたいと思います。

視点3. 機器の保守料や専門家に支払う経費は関与度合いで節約できることもある
機器の保守料についても、節約は可能です。例えば、ほとんど故障しないコピー機の保守契約に年間25万円程度支払っていたクリニックもあります。機器によっては、サービス内容に応じて保守料がランク分けされていることがありますので変更できないか検討いただきたいと思います。

また、税理士、公認会計士や社会保険労務士、弁護士、コンサルタントなどの顧問料も、機器の保守料と同様で、ランク分けがあるか確認いただきたいと思います。専門家でなくてもできることは自院で行い、専門家の負担を軽減できれば顧問料が安くなるケースもあります。その上で、専門家の訪問回数を3カ月~半年に1回に減らすことで顧問料を軽減できたケースもあります。

視点4. 費用対効果と現物確認で広告宣伝を節約する
広告宣伝費の見直し方法としては、まず新患の来院動機(何を見て来院したのか)をアンケートや問診で聞き、あまり効果的でないと判断した広告は削ることです。

例えば、あるクリニックで開業と同時にいくつかの駅看板を設置したものの、実際には車で来院する患者が予想以上に多く、電車での来院が少なかったことがあります。そのため、駅の看板広告を主要な駅に絞ったのですが、新患の数はあまり変わりませんでした。また、看板の現物を確認することも重要です。電柱の看板が木の陰に隠れるなど見えにくくなっていたことがあり、看板の本数を減らすことで広告料を削減できたケースもありました。

視点5.MS法人との取引は委託費を検討する
クリニックがMS法人へ支払う業務委託料が、自院の収益に比べて明らかに割高になっているケースがあります。MS法人の人員が以前に比べて減ったにもかかわらず、業務委託料が変わっていなければ、取引に妥当性がないとして税務調査で問題視される可能性がありますので決算時に検討いただきたいと思います。

最後に、種々の会費なども整理の対象になり得ます。個人的な付き合いで入会した研究会や団体の経費などは、関与する頻度や必要性が低いようであれば退会をご検討ください。クリニックの経費の見直しにおいては、人件費に手をつける前に今回紹介したような手法で削減することができれば、それに越したことはありません。まずは自院の経費を上記の視点で総点検し、経費削減につなげていただきたいと思います。


【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】