診療所

事例に学ぶ!効果的なスタッフの褒め方について

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談事例】 

近畿地方で内科・呼吸器内科で開業されているA内科クリニックの院長より「スタッフがミスをしたりスタッフが原因で患者さんからクレームがあると、ついつい感情的に叱ってしまう時があり、スタッフが突然退職してしまって1年中採用活動を行っている状態です。スタッフを効果的に注意する(叱る)方法を他のクリニックの事例なども含めて教えてほしい」というご相談を頂きました。

【回  答】

弊社がA内科クリニックのスタッフにインタビューしたところ下記のような回答が返ってきました。
  •  院長はスタッフを感情的に叱りとばし若いスタッフは怖がっている
  •  院長はスタッフへの感謝の気持ちを表現できないしスタッフを認めること(承認)はない
スタッフは院長に怯えているように私の目には映りました。

院長に上記のインタビュー結果をフィードバックしたところ、「褒めるところがないスタッフをどうやって褒めることができるの?」という回答でした。さらに「じゃあ具体的に褒めるところがないスタッフにどのように褒めたらいいのか、教えてよ!」と強い口調で迫ってこられました。
たしかにA院長のお言葉の通り、いつも問題を起こして褒めるところが見つからないスタッフもいると思いますが、そんなスタッフも何かのご縁で一緒に働いているのです。そこで、A内科クリニックの院長には下記のような提案をしました。

1. 褒めるところの見つからない(注意したい)スタッフを承認するポイント
 ①なってほしい形を伝える
 例: 患者さんには良い顔をするが院長やスタッフには無愛想なスタッフ「〇〇さんはいつも患者さんに笑顔を振りまいてくれているね。その笑顔をスタッフにも振りまいてください。〇〇さんは笑顔が似合うよ」

 ②目指していることを伝える
 特に院長の方針が伝わっていないスタッフへの具体的な声かけ方法「私は、〇〇なクリニックを目指しているので、〇〇さんもついてください!」
 
 ③勤務してくれていることに感謝する
心の中であなたを批判していても、毎日来てくれているのです。そのことに「ありがとう」と感謝し、そんなスタッフを「すごい!縁がある!」と考えて頂く。

2.注意したいスタッフへの承認の言葉事例
上記1をまさに実践している優秀な院長の言葉を下記にまとめました。

①〇〇さんは話し方も優しい感じが良いね。
② 僕は、新しい待合の形を作るつもりなので、嫌がらんと、ついてきてや、頼むね。
③ ここ最近、顔見るたび、あれこれ頼んで、いい話を一つもしないでごめんなさい。いつも欠勤もなく勤務してくれてありがとう。

上記のとおり、褒めるに値する行動に対して褒めるのではなく存在自体を褒めることが、特に女性の多い職場のポイントになると思います。私の会社も女性中心の職場です。私も経営者となって12年を経過しますが、女性の職場特有の難しさを感じながら、日々仕事をしています。

3. 全員公平な承認ができる給与明細書へメッセージ!
言葉がけの苦手な方は、毎月公平に全員に渡される給与明細書に承認のメッセージを書くことが効果的です。弊社のクライアントの院長は5年間ずっと毎月のメッセージを書き続けていらっしゃいます。書き続けるコツを伺ったところ、下記の3つが継続のコツでした。

①毎月一緒でもよい
②重く考えず、どう受け止められるかを考えない
③感謝を伝えるチャンスと思っておく

院長からの給与明細書のメッセージについてスタッフにインタビューしてみると「あの時の院長のこの言葉が支えになった」「辞めようと思っていた時にこのメッセージを頂いたので今も働いている」など、給与明細書のメッセージがスタッフの心に届いているように思いました。このクリニックのスタッフの多くは給与明細書を大切に保管しておられます。

A内科クリニックの院長に上記1~3をお話ししたところ、言葉がけは苦手なので給与明細書にメッセージを書くことを院長自身が決められました。そして、院長が給与明細書のメッセージを書くようになって半年が経ちました。相変わらず、感情的に叱ってしまう場面もあるようですが、不器用ながら努力している院長に共感したスタッフが一人二人と増えているようです。スタッフにどのように受け止められるかと思って躊躇する方もいますが、上記のような効果があるのでぜひスタッフを承認することを実践して頂きたいと思います。


【2023. 3. 15 Vol.564 医業情報ダイジェスト】