診療所

スタッフの持ち帰り業務はリスクがいっぱい!

クリニックがとるべき対策
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で内科クリニックを開業して10年目の院長からのご相談です。
「先日、医療事務スタッフがスタッフ個人の判断でレセプト請求事務に関する書類や発熱関連の書類などを持ち帰って自宅で業務をしているという話を個別面談にて聞きました。レセプト業務やその他重要な書類の提出について期限までに終わらせたい気持ちはわかるのですが・・たびたびこのようなことがあるようです。
スタッフが書類を持ち帰って業務を行う場合、クリニックにはどのようなリスクが考えられるでしょうか。また、どのような対策を検討したらよいのでしょうか?」

【回  答】

1.クリニックのリスク
明確な指示なくスタッフ個人が判断して行った書類持ち帰りの業務であっても、労働時間として判断され、それに応じた賃金を支払わなければならない可能性があります。また、患者の医療情報をはじめとした個人情報を外部に持ち出している可能性があります。その場合は、紛失や流出等による情報漏えいのリスクを負うこととなり、クリニックが損害賠償の責任を負うことも考えられます。

持ち帰り業務によって、クリニックには以下のようなリスクが考えられます。

① 未払い賃金の発生リスク
労働時間は、原則としてクリニックの指揮命令に基づいて行われた業務の時間を指しますが、明確な指示がなく黙示の指示により行われた業務についても、労働時間とみなされることがあります。
また、業務が行われた場所は院内に限らず、自宅であっても労働時間と判断されるケースがあります。労働時間であれば当然に時間相当分の賃金を支払う義務が生じるため、持ち帰り業務を黙認している場合、時間外手当等の賃金の未払いリスクが発生する可能性があります。

② 情報漏えいのリスク
自宅で業務を行うために、患者の機微な情報等を紙媒体やデジタルデータで持ち出すことがあるでしょう。このとき、これらの情報を紛失、流出するリスクがあります。仮にスタッフ個人の判断で情報を持ち帰り、その際に紛失し、損害が出たとしても、クリニックの管理責任が問われクリニックが損害賠償責任を負うことが考えられます。

2.クリニックがとるべき対策
いずれにしても、「指示をしていないから」「タイムカードに記録されていないから」等の理由でスタッフが行う持ち帰り業務を放置することは避けるべきであり、クリニックにも大きなリスクが伴うことを認識し、管理を徹底することが必要です。
持ち帰らなければ終わらないほどの業務量があるのか。持ち帰り業務でどのようなことをしているのか、持ち帰り業務をしなければならない理由はあるのか、といったことを確認した上で、クリニックの業務時間内で仕事を終えられるよう業務内容を見直し、業務体制を整えることをお勧めします。

原則、書類を持ち帰らせない、持ち帰り業務をさせないことをスタッフに徹底するには、就業規則などの諸規則に定めミーティングなどで周知徹底していただくことが大事です。また、スタッフに書類を持ち帰ってまで実施していただく業務があるならば、許可申請や、持ち出してもよい情報の範囲や持ち出し方法等を明確に定め、情報漏えいのリスク対策を実施していただくことをお勧めします。




【2024. 4. 1 Vol.589 医業情報ダイジェスト】