診療所

ベテランスタッフが退職しても 業務が回る仕組みをつくりあげる方法

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

整形外科クリニック開業28年目の院長より「当院の受付・医療事務の業務をすべて把握しているベテランスタッフから退職の申し出がありました。当院の受付事務の業務を全て把握しているので本人にしか分からない仕事が多くあるようです。そのスタッフの退職後、仕事が回らなくなる恐れがあります。ベテランスタッフが退職するまでにどのように対処すればよいでしょうか」というご相談を頂きました。

【回 答】

ベテランスタッフが退職して仕事が回らないという相談はよくお受けします。なぜベテランスタッフが退職すると仕事が回らなくなるのでしょうか?これは、ズバリ仕事が属人化してしまい標準化されていないからです。仕事が標準化されていないクリニックは、気配りや気づき能力の高いスタッフばかりに仕事が集中してしまい、そのようなスタッフが退職すると何も残らない状態になる悪循環が形成されてしまいます。そこで、今回より2回シリーズでベテランスタッフが退職しても仕事を回していくことのできる体制づくりについてお伝えしたいと思います。

課業一覧表を作成する手順とは
クリニックのすべての業務とスタッフの能力を目に見えるようにするツールとして、表1のような課業(各部門に割り当てられている業務)について整理した課業一覧表の作成をお勧めしています。
課業一覧表とは、職種別(部門別)に、業務を洗い出し、スタッフが各業務についてどれくらいのレベルで仕事ができるのかを一覧表にまとめたものです。下記に課業一覧表を作成する手順をまとめたので参考にして頂きたいと思います。

STEP1. 自院の各部門の課業をリストアップする。
自院の受付事務部門の業務について業務を指導できるレベルのベテランスタッフと一緒にリストアップを行うことで自院の受付事務部門の課業を網羅できます。クリニックの受付事務部門の課業は概ね下記のような課業に集約されることが多いので参考にして頂きたいと思います。
  1. 受付対応⑦健康診断に関する事
  2. 電子カルテに関する事⑧福祉・介護・在宅に関する事
  3. レセプトに関する事⑨書類整理に関する事
  4. 自賠責の請求に関する事⑩金銭管理に関する事
  5. 労災請求に関する事⑪環境整備に関する事
  6. 予防接種に関する事

STEP2. 上記STEP1の課業を業務単位に分解して業務をリストアップする。
STEP1と同じ方法で課業についてベテランスタッフをはじめ受付事務全スタッフと一緒に業務を漏れなくリストアップします。同じ業務をダブらせないように業務分解してリストアップをすれば、業務単位の入った課業一覧表を作成できます。作成した課業一覧表によって自院の受付事務業務の1~100を網羅できるはずです。下記に課業の中で業務が人につきやすい「レセプトに関する業務」について業務分解をした事例を抜粋したのでご参考ください。

【レセプト関連を業務分解した事例】
  1.   当院のレセプトの全体の流れ、内容を把握し処理をする
  2.   1カ月来院のない患者のカルテをバックヤードのカルテ棚にて保管する
  3.   日毎にカルテ内容、病名をチェックし、病名・コメントが必要そうであれば担当医師に連絡する
  4.   当月以外で自費から保険に変更があった場合は月遅れ処理をする

STEP3. 各スタッフの業務レベルを把握する
STEP2でリストアップした業務について現在、受付事務がどこまでできているか、把握します。課業一覧表の右端の欄を活用して自己評価を行ってもらうことで各スタッフの業務レベルを把握できるとともに、課業のどの業務が人についているのかを把握することができます。自己評価は下記の通り回答してもらいます。

<自己評価の回答について>
 「指」(他のスタッフを指導できるレベルにまで習得している業務)
 「自」(業務を自己完結できるレベルまで習得している業務)
 「サ」(先輩スタッフなどにサポートしてもらいながら業務を遂行できる業務)
 「× 」(教えてもらっていない業務など経験のない業務)

あるクリニックにおいて上記のとおり自己評価をしてもらったところ、表1の結果となりました。自己評価のなかで一人のスタッフのみが「指」「自」レベルになっている業務を「人に業務がついている業務」として、その業務を網掛したところ、レセプト、自賠責(事故)、労災、生活保護に関する課業の半数以上の業務が一人のベテランスタッフにしか遂行できない状況にあることが判明しました。
網掛された課業から業務のマニュアル化、手順化を行い、他のスタッフが業務を完結できる仕組みをつくることをお勧めします。次回は業務のマニュアル化と手順化の進め方についてお伝えします。




【2022. 7. 15 Vol.548 医業情報ダイジェスト】