診療所

医療法人設立は本当に有利なのか、 7つの判断ポイント

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

開業3年目の近畿地方の内科クリニックの院長より「顧問の会計事務所が『所得税と法人税の税率の“差”を活かして今よりお金を残していけるのでぜひ医療法人化しましょう!』とやたら医療法人の設立を勧めてきます。最終的には事業主の自己責任となるので医療法人設立の判断基準を教えて頂きたい」という相談を頂きました。

【回 答】

高額納税者の個人クリニックの院長、院長夫人の節税ニーズが高まっているなか、顧問税理士の先生や会計事務所の担当者から医療法人設立の提案があり、「本当に医療法人を設立したほうが有利なのか?」というご質問を頂く機会が増えています。
一度、医療法人になってしまえば、原則、やめることはできませんし、医療法人設立後、「そんなことがあったのか?」ということがあっても取り返しがつきません。当事者は知らなかったではすまされないので慎重にご検討頂きたいと思います。
たしかに、節税ニーズのある個人クリニックに医療法人設立を提案するのはクライアントにとっても会計事務所にとってもメリットがあるかもしれませんが、その中には必ずデメリットも潜んでいることを知って頂きたいのです。
本日は、節税対策として医療法人の設立を提案された場合、デメリットを把握でき、その節税がご自身にとって有利かどうかを判断する7つのポイントをお伝えします。

ポイント1.節税額はいくらなのか?
節税の基本は所得分散です。個人に集中している所得を法人と個人に分散することで節税を図ることは節税の基本です。つまり、院長個人の所得について、家族を役員にして給与所得で所得分散することで節税が可能となります。
 それを踏まえて医療法人を設立した場合、税金はどれくらい変わってくるのか(節税金額はいくらなのか?)数字をもって把握頂きたいと思います。税理士の先生や会計事務所の担当者にまずご確認ください。

ポイント2. 節税の行方と医療法人設立後の増加コストは?
次に節税額の行き先を把握してください。クリニックが医療法人を設立するということはクリニックの事業のお金と家計を分離することになります。したがって、節税した金額をすべて個人で使えるわけではありません。法人に残る留保金額、法人設立にともない役員や従業員の社会保険料の法定福利費、家族に支払われる役員報酬の可処分所得、法人設立によって発生するコストなど節税の行方を金額で把握してください。
さらに医療法人を設立後、コスト増になる経費項目(例:会計事務所の顧問料・決算料、司法書士へ支払う報酬など)をリストアップしてください。節税額に加え、医療法人設立後のコスト増もシミュレーションをして頂くことをお勧めします。

ポイント3.家族の可処分所得はいくらか?
法人で留保される金額、役員になっている家族全体の可処分所得の金額を把握してください。役員個人が住宅ローンや教育費などを役員報酬内でやっていけるか?をご検討ください。

ポイント4. 個人事業時代の負債を引き継ぐことができるか?
クリニックに借入金残高があるところは要注意です。借入金を引き継げるのか、よくよく検討してください。特に医療法人においては都道府県庁の認可が必要になります。あらかじめ事前相談しておくべきでしょう。

ポイント5. 退職金でとった方がご自身にとって有利なのか?
顧問税理士の先生から「医療法人であれば引退するときに退職金をとれます。退職金は、給与所得とちがって1/2の課税ですみます。退職金でとることは税制上、有利です」というような説明をしてもらえると思います。はたして、ご自身にとってどうなのか?将来より、今、使えるお金が多いほうがいいのか?将来的に退職所得でとったほうがいいのか?など、ご家族の状況も踏まえ、よくよくご検討頂きたいと思います。

ポイント6. 保険を活用しながら節税し、どれくらい財産形成ができるのか?
医療法人で保険加入して節税をしながら将来の退職金などお金を貯める事ができます。ただし、2019年2月に保険税制の見直しによって法人保険による節税効果・資産形成効果が薄れています。はたしてどれくらい節税効果があって財産形成ができるのか?をあらかじめご検討頂きたいと思います。

ポイント7.相続・事業承継の観点で見てどうか?
後継者が決まっているのであれば、私は医療法人の設立を積極的に提案しています。理由は、クリニックの資産を後継者に課税されることなく承継できるなど、事業承継においては有利になるからです。

医療法人設立は単なる節税対策目的だけではなく、上記の7つのポイントをもとに総合的にご判断頂くことをお勧めしたいと思います。


【2022. 10. 1 Vol.553 医業情報ダイジェスト】