保険薬局

メールで人は動かない

「何のための改革なのか」それはメールでは伝わらない
開局薬剤師 岡村 俊子
令和5年1月予定の電子処方箋運用まで2か月を切った。さて・・・進行状況はどうなのだろう。11月からは国民向けの案内も始まるようだ。

この原稿を書いている今(11月2日)、大阪急性期・総合医療センターは電子カルテシステム障害の影響で処方箋のシステム発行さえできず手書きの処方箋で対応しており、システム復旧までの見通しが立っていない。これからも同様の障害が起こることは十分に予測されるが、それを理由に敷地内薬局化や院内処方箋に逆行するようなことがあってはならないと思う。

オンライン資格確認システムの拡充により、レセプト・特定検診情報、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療機関等が発生源となる医療情報を共有することができるようになる。患者自身も希望すれば情報を閲覧できる。極論を言うと、今まではお薬手帳を介して情報を共有していたが、お薬手帳自体が不要になるということだ。ただ、自然災害・電子システム障害の場合もあるし、何より「自分の薬は自分で管理する」ためにお薬手帳は今まで通り持っていてほしい。

それにしても、電子処方箋についての医療機関の認識はどうなのだろう。日経メディカルオンラインの医師会員へのアンケートによると、電子処方箋の運用が2023年1月から始まることを「知らない」と回答した医師が7割を超えていた。今、医師も薬剤師もオンライン資格証の発行を急いでいると思うが、薬剤師の場合とりあえず薬局に在籍する2名が資格証を入手できればなんとか対応できそうだが、クリニックでは医師本人が入手しないと対応できないのだが間に合うのだろうか。

私はいろいろな連絡のほとんどをメールで行っている。自分の都合の良い時間に送受信できること、口頭での聞き違い、情報の洩れをなくすこと、何より相手の業務を遮らないという利点のためだ。ただ、大切な事、急ぐ時、相手との意思疎通が上手くいっていないと感じるときはすぐに電話、場合によっては対面に切り替える。メールではお互いの強調ポイントや切羽詰まっている感覚が伝わりにくい。メールの文章から相手の想いをくみ取るのは至難の技だし、下手をすれば逆の解釈をされてしまう。

振り返って、今から運用される電子処方箋システムについて国は十分に説明しているだろうか。先日、ある薬局グループの代表が「社内の人間に社長の意図を理解させ、自分が経営に参画しているという意識を持たせるには社員に経営理念や方針を毎日読み上げさせて浸透させるしかない」ということをおっしゃっていた。アナログだが、毎日皆で繰り返し言葉にすることで頭に入る、いわば信じ込ませることができるという話は、ある意味新鮮だった。やはり、トップの想いはメール1本では伝わらないのだ。

例えば、新型コロナウイルス治療薬(ラゲブリオ)においては、処方する側の医師に十分な情報が伝わっていないため、処方する医療機関が限られていたようだ。今はどの薬局でも普通の流通経路で入手できるが、それまではどこの薬局が治療薬を備蓄しているのかという情報も医師には伝わっていなかったことも処方しにくい原因だったと思う。また、無料PCR・抗原検査に関する情報も行政のホームページを見た人にしか伝わっていなかった。
比較的若い世代でさえ、全員がオンラインで動くわけではないのだ。

電子処方箋運用、オンライン資格確認も「こういうメリットがありますよ」と言われても、今そんなに困っているか?と国民も(医療関係者も)は思うだろう。
「薬がいろんな医療機関で重複していて医療費の無駄遣いになっている」
「急性期病院は本当に緊急性・重大性のある患者を診察する場所なので急性期を脱した方はかかりつけ医に戻ってください」
「現役世代の将来への借金が増えるので高齢者の医療費負担が増えるが我慢してください」
「医療費を抑えるために不要な受診は控えてください」
「デジタル化しないと、少子高齢化のために病院の医師や看護師をはじめとする医療関係者は疲弊し、労働力が足りなくなり本当に必要な医療がストップする」

もしこのままの状態を続けた場合のデメリットは最悪の場合●●になります・・・といった本質の部分を理解してもらわないと、本気で取り組む気にはならないだろう。
「何のための改革なのか」それはメールでは伝わらないのではないだろうか。


【2022.12月号 Vol.319 保険薬局情報ダイジェスト】