保険薬局

未病・予防への取り組みについて考える

ヘルスリテラシーを高めること
一般社団法人薬局支援協会 代表理事 薬剤師 竹中 孝行
高齢化に伴って、介護や医療にかかる負担は年々増えており、少子化も進んでいるなかで社会保障費をどのように補っていくかは日本にとって大きな課題だと感じています。介護や医療にかかる負担を下げるためにも、健康寿命延伸に向けて、未病・予防への取り組みをどのようにやっていくか、薬剤師にどのような関わりができるのか、とても大切な観点ではないでしょうか。今回は、なぜ、未病・予防への取り組みなのか、そして、薬剤師ができる未病・予防への取り組みは何があるのか、について考えていきたいと思います。

■なぜ、未病・予防への取り組みなのか?

薬局は、地域住民に向けて未病・予防への取り組みをするのに、とても適した場所だと考えています。というのも、年齢を問わず様々な診療科を受診する方の出入りがあることはもちろんのこと、一般用医薬品の販売や、服薬指導、健康相談のなかで、今後の病気に繋がるようなポイントに気づきやすいなど、多数の理由が考えられます。健康サポート薬局の機能としても、地域住民の疾病の予防や健康サポートに貢献することが求められています。
このような取り組みは、保険点数に直接リンクするものではないものの、増大していく社会保障費をおさえ、皆保険制度を維持していくためには大切なことであり、そこで薬局が果たせる役割は大きいのではないかと思っています。

■どのような取り組み事例がある?

では、未病・予防への取り組みといってもどのようなものがあるのでしょうか?全国あらゆる薬局で様々な取り組みをしているかと思いますので、ここでは一部を紹介します。

・検体測定室の設置
検体測定室とは、利用者が自ら採取した検体(指先採取の血液など)について、血糖値、HbA1cや中性脂肪などの簡易的な検体検査を行うサービスです。診療の用に供しない検査となりますが、利用者が検査結果を把握するとともに、薬局が利用者に対して、健康診断の受診や医療機関への受診を勧めることで、生活習慣病の予防や早期発見に繋げることができます。

・心電計付き血圧計の活用
薬局に心電計付き上腕式血圧計を設置し、来局者に心房細動の啓発活動を行うとともに、本人の希望により心電図を記録します。記録した結果に問題があれば、地域の専門の医療機関の受診を勧めます。心原性脳梗塞の主因といわれている心房細動を早期に発見し、早期治療に繋げることができます。

・アイフレイルのチェック
アイフレイルとは、加齢による目の機能の低下のことです。年齢とともに、眼球は構造的にも、機能的にも様々な面で衰えてきます。何らかのストレスが加わったり、放っておくと視機能の障害がでてきます。早期に発見できれば、適切な予防・治療が可能です。アイフレイルのチェックシートを薬局で配布し回答をとり、チェックが基準以上あった場合には、眼科受診を勧めるといった取り組みになります。

・みんなのがん学校
薬局の店頭に、クイズ形式でがんの基礎的な知識について学ぶことができるタッチパネル式の機械を設置します。薬局来店者は、タッチパネルを利用してクイズ形式でがんの基礎的知識を気軽に学ぶことができ、がん検診受診への関心を高めることに繋がります。無関心層へのがん健診受診のアプローチは非常に大切な観点です。

■ヘルスリテラシーを高めること

ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のことです。ヘルスリテラシーを高めることは、病気の予防や健康寿命の延伸に確実に繋がります。日本のヘルスリテラシーは欧米やアジア諸国と比べても低いという報告があります。
こういったなかで、薬剤師や学校薬剤師の方が子どもたちに講義する、地域住民の方を集めて健康教室を行う、健康相談の中で正しい知識を伝える、などやれることはたくさんあります。ヘルスリテラシーを高めるためにどんなことができるのかを考え、行動し、地域に向けて貢献していくことはとても大切なことだと思います。

■まとめ

今回は、なぜ、未病・予防への取り組みなのか、そして、薬剤師ができる未病・予防への取り組みは何があるのかについてまとめました。
冒頭でお伝えしたとおり、薬局は、未病・予防への取り組みをする上で、とても適した場所だと考えています。今後、社会保障費をどのようにおさえて皆保険制度を維持していくかは大きな課題であり、薬剤師がその課題に対してどのような取り組みができるのか、新たな活躍の幅を拡げるひとつのチャンスではないでしょうか。


【2023.10月号 Vol.329 保険薬局情報ダイジェスト】