保険薬局

(21)化学物質過敏症とは

小中学校でも化学物質過敏症が問題になっている
薬剤師 産業カウンセラー 荒井 なおみ
先日、自治体が開催した「化学物質過敏症(主催:消費センター)」のセミナーに出席しました。認定NPO法人化学物質過敏症支援センターの方が講師をされ、とても興味深いお話を伺いました。誰もが元気に暮らし、元気に働くために注意すべきポイントがたくさんありましたので皆様へもお伝え致します。

1.化学物質過敏症とは

化学物質過敏症は、アメリカ/シカゴのアレルギー専門家の医師セロン・G・ランドルフ博士により、1961年に提唱されました。その後、1970年代に欧米でシックビルディング症候群の概念が提唱され、日本では1990年にシックハウス症候群として紹介されました。化学物質を一度に大量に体内に取り込んだときや、微量であっても長期間に渡り体内に取り込んだ時に発症しやすいと言われています。一度発症すると、その方が過去に暴露された量や一般的には耐えられる量より少ない量でも症状が現れます。多くの方が感じない量で反応するために、「神経質だ」とか「気のせい」「わがまま」などと言われてしまうこともあります。
最初は柔軟剤等の限られた匂いだけに反応していても、次第に印刷インクやマーカーなどの臭いでも体調不良となり、学校や職場で過ごすことが辛くなり、登校や出勤できなくなる場合もあります。関連性のない多種類の化学物質に対して反応が生じることから、多種化学物質過敏症とも呼ばれます。昨今では、コロナ下で使う機会が増加した抗菌グッズやアルコール消毒液なども原因物質の一つとなっています。

患者の反応を引き起こす主な化学物質(横浜国立大学糸山景子氏ら調査)
家庭用殺虫・殺菌・防虫剤類/香水などの化粧関連用品類/シャンプーなどボディーケア用品類/洗剤類(衣料用、住居用の洗剤や洗浄剤、柔軟剤→相談が増えている)/防臭・消臭・芳香剤類/たばこの煙/灯油などの燃料類/ペンなどの筆記用具/印刷物類(インキ・紙)

2.小中学校でも化学物質過敏症が問題になっている

兵庫県宝塚市教育委員会が令和5年5月に行った「市立小学校・中学校における香害及び化学物質過敏症に関するアンケートの結果」によれば、下記の結果が得られています(母数:回答者、アンケート宛先:保護者)。3~4人に一人のお子さんが人工的な香料に対し不快を感じていることがわかりました。
  • 子どもが人工的な香料(化学物質)に不快を感じたことがある・・・26.2%(小学生)、32.1%(中学生)
  • 子どもが人工的な香料(化学物質)によって体調不良を起こしたことがある・・・7.4%(小学生)、8.9%(中学生)
「化学物質過敏症を知っているか」という問いについては、「聞いたことがありどんな問題が知っている」と答えた方は、小中学校合わせて50.4%、「聞いたことはあるが詳しくは知らない」と答えた方は44.5%でした。化学物質過敏症という言葉は耳にしたことがあるものの、内容までは詳しく知らない方が半数いらっしゃることがわかりました。

<給食当番:家庭のエプロンを使用可能に>
多くの学校では週替わりの給食当番があって、当番最後の金曜日に給食白衣等を持ち帰り→家で洗濯して→月曜日に持って来て→次の当番さんがその白衣を使って、というサイクルがあります。
昨今、持ち帰った白衣の柔軟剤の臭いが辛い、犬猫の毛でアレルギー症状が出る、コロナ下での共用が不安などの理由で家庭のエプロンを使用可能にしている小中学校が少しずつ増えてきているそうです。
(例)豊橋市、松山市、さいたま市、宝塚市など

3.自宅や職場でお互いに配慮を

化学物質過敏症は、「(まだ)なっていない方」にとってはイメージが湧きにくく、過小評価してしまうことがあるかもしれません。しかし「なってしまった方」にとっては、毎日の生活そのものが化学物質との戦いです。
化学物質はそれほど私たちの身の回りに溢れているのです。そのような中で暮らす私たちは、今症状が出ていないからと言って安心することはできません。セミナーを受けて、“配慮”は誰かのためだけではなく、自分を守るためでもあるんだなと思いました。

  1. 化学物質過敏症について知る → 知識は何よりの力です。分かれば納得できますし、効果的な対策を立てやすくなります。最も深刻な他者の無理解からくる2次的なダメージを避けることができます。
  2. 原因物質を散らさない → できる限り原因として多く挙げられている物質を使わないようにします。職場が禁煙であることは言うまでもありません。過敏症の方がおられたら、原因物質を皆で極力使わないようにしましょう。
  3. 普段の生活を見直す → 今より少しだけ化学物質に頼らない生活を考えます。バランスの良い食事、特にミネラルやビタミンをしっかり摂ることが大切です。運動や入浴で汗をかき、体内の化学物質を排泄しましょう。

今回は化学物質過敏症について考えてみました。ご参考になれば幸いです。


【2024.1月号 Vol.332 保険薬局情報ダイジェスト】