保険薬局

(6)耳の不自由な患者さんとともに

ろう者の方への服薬指導
薬剤師 産業カウンセラー 荒井 なおみ
最近、服薬指導をするため電子薬歴を確認していたところ、「聴覚障がいのある方:筆談でお願いします」という伝達事項をコメント欄に見つけました。そこで今回は、どなたにも等しく必要な情報をお届けするために、耳の不自由な患者さんの事例からどのようなことができるかを考えてみました。

1.ろう者の方への服薬指導

すべての患者さんがご自身の薬物療法に関し必要な情報を薬剤師から得ることは、大変に重要なことです。コロナ下において、薬剤師も患者さんもマスクを着け、またパーテーション等を隔ててのやり取りは、お互い聴者であっても聞き取りづらい状況かと思います。曖昧に返事をしてしまったり、思い込みで回答してしまったりすることが双方ともに起こり得るでしょう。
今回私が対応した患者さんはろう者の方でした。その方は手話を使いますが、残念ながら私は手話を使えません。薬袋・薬情などを指さし、薬を指さし、見振り手振りを交え、薬袋に書き足し、メモ用紙に質問を書き、患者さんにもそのメモ用紙に書いてもらいました。最後に「お大事に」だけは手話でお伝えしました。
ある程度時間を取ることが出来たので良かったですが、混んでいる時間帯であればどこまでできたか自信がありません。
聴覚障害のある方だけでなく、この方はこういうところで不便を感じているのかもしれないと想像力を働かせたいですね。患者さんだけでなく、一緒に働くスタッフの中にも何等かのやりづらさを感じている人がいるかもしれません。自分の目線だけでなくその方の目線も想像することができる、誰にとっても優しい職場であったらいいなと思います。

先日成立した「東京都手話言語条例」について紹介します。

東京都では、手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、手話を必要とする者の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会を実現するため、条例を制定し、令和4年9月1日に施行します。(東京都福祉保健局)

2.外部資源を活用しよう!

自治体や職能団体が障害のある方々の情報保障を目指して資料を作成し、Webで公開しています。今回は千葉県が作成したガイドラインと都薬雑誌「患者さんとの会話事例から学ぶ手話講座」で紹介されていた手話動画をご案内します。どなたでも利用することができます。
1) 【障害のある人に対する情報保障のためのガイドライン(平成29年3月)】(千葉県発行)
第1章では「障害の特性に応じた配慮の基本」、第2章では「場面ごとの配慮」が記されています。全56ぺージありますが、多くの状況と場面を設定し、広範囲に使えるガイドラインだと思います。
視覚障害のある人/聴覚障害のある人/盲ろう者/音声機能障害、失語症、吃音などのある人/肢体不自由の状態にある人/障害のある人への配慮や対応施設に関するマーク/内部障害のある人・難病患者等/知的障害のある人/重症心身障害の状態にある人/精神障害のある人/高次脳機能障害のある人/発達障害のある人/色弱の人/重複障害(複数の障害を併せ有する人)

2) 【薬局で使える手話を学べるWEB】(監修:一般社団法人全日本ろうあ連盟)
「よろこばれる薬剤師なろう!動画で学ぶ3分ラーニングレッスン」というタイトルで全6回のレッスンを受けることができます。保険薬局の薬剤師が患者さんとやり取りするシーンのあと、細かな表現を教えてくれます。1動画約3分と短いのですぐに見ることができ、何回も繰り返して見ることにより薬局で使う基本的な手話表現を覚えることができます。http://www.learning-tokyo.com/

3.選ばれる薬局になりましょう!

薬局には様々な状況の患者さんがいらっしゃいます。私たちはそれぞれの方に合わせてどのようなことができるでしょうか。たくさんの方法を持っていると対応の幅が広がります。想像を巡らせ、患者さんに安心して来ていただける薬局作りをしていきましょう。

①相手の状況・必要に気づく
→ このやり方が当たり前、普通はわかってくれる、という考えから自由になりましょう。こちらのやりたいことではなく、相手の必要に基づいて対応します。

②使えるものは何でも使う
→ 薬袋や薬情、説明書などの印刷物をもっともっと活用しましょう。
→身振り手振りは効果的!
→書いては消せるボードやメモ用紙も使えます。

③さらなるスキルアップを目指す
→ タブレットはそれ1つでたくさんの情報(動画も)を提供することができます。
→手話を学ぶのもよいかもしれません。
→ 音声が文字になったり、チャットで患者さんとやり取りしたり。もう私はついて行けませんが、若い方はどんどん取り組んでください。

今回はろう者の方の事例から、誰にでも優しい薬局作りを考えてみました。ご参考になれば幸いです。


【2022.10月号 Vol.317 保険薬局情報ダイジェスト】