病院・診療所

建築単価高騰下の計画見直しポイントを考える

データから考える医療経営
株式会社メディチュア  代表取締役 渡辺 優

■2022年秋以降、建築単価は急上昇

病院・診療所の建築予定単価は上昇が続いている=グラフ1=。特に22年秋以降は急上昇とも言えるような変化である。背景には、人手不足や最低賃金引き上げなどによる人件費高騰と、円安とインフレなどの影響を受けた建築資材の価格高騰がある。前者は、今後さらに少子高齢化が進むことを考えれば、人件費が下がることは考えにくい。後者は、世界的な原材料の不足・高騰の影響により、幅広い建築資材の価格高騰と納期遅れが生じている。そのため、建築資材の価格が下がることも考えにくい。

グラフ1 全国の病院・診療所の平均建築予定単価 月次推移

国土交通省 建築着工統計を基に作成

加えて、病院経営はいまだかつてないほど厳しい状況にある。労働集約型の代表的な産業である病院は、費用に占める人件費の比率が高い。人件費が高騰すれば、職員の給与に加え、委託費なども増える。
また、診療報酬に看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料などの項目が新設された。ただし、これらの項目を算定し人件費アップ分を患者から薄く負担してもらったとしても、その増収分はすべて職員の給与の引き上げに消えてしまう。むしろ、職員間の不公平をなくすために、病院が持ち出しで職員に支払うことがほとんどである。皮肉にも、ベースアップ評価料などは、病院経営を厳しくしている。

■病院の老朽化で建替待ったなし

病院建物は老朽化が進むと、動線の長さなどが原因で医療提供の効率性低下やメンテナンスコストの増大など、マイナス面が目立つようになる。また、最新の医療器材などの導入において、階高や積載荷重などのハード的な要件がネックとなることもある。そのため、一般的には30から40年程度で建て替える。しかし、病床機能報告のデータを見ると、すでに建築から30年以上経過した病院が少なくない=グラフ2=。なかには40年、50年以上経過した病院も見受けられる。

グラフ2 建築時期別許可病床数(病床機能別)

※ 病床機能が休棟中、および、建築時期が不明の病棟は除外(病床機能報告(2023年度報告)を基に作成)

■ 建築単価が高騰しているからこそ、革新的なアイデアが求められている

病院建築の計画に数多く関わる有識者は「 今が一番建築単価が安い 」と話していた。そうであるならば、建築単価が下がることを期待し、建築計画の策定を先送りすることは避けるべきだろう。しかし、これだけ病院経営が厳しい環境下において、収支の成り立つまともな建築計画を策定できるとは思えない。実際には、今後の人口動態・医療需要推移を踏まえることはもちろん、地域医療構想や医療政策動向を踏まえた現実的な診療機能と病床規模を考えることの重要性が飛躍的に高まった。加えて、事務部門や給食部門など、周辺病院などと複数で共有化を図るような検討をすべきかもしれない。これらの施設・設備の共有化は、建築単価高騰下に有用な対策であることに加え、少子化対策にもつながるはずである。


【2025. 3. 15 Vol.612 医業情報ダイジェスト】