病院・診療所

部署間の小さな溝を埋め、スタッフの一体感を高めるために

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で整形外科クリニックを営む院長から 「常勤スタッフとの半年に1回の個人面談が終わりました。特に大きな問題はないのですが、受付と看護、リハビリの各部署間の壁というか、小さなレベルの仕事の押し付けあいが、なんとなくスタッフ間の不満になっていると感じます。よくビジネス雑誌や書籍で職場風土の変革に関する記事などを読みますが、なかなか当院では取り組みにくいです。部署間の問題に取り組まれているクリニックの事例があれば教えてください」 というご相談をいただきました。

【回 答】

私どものクライアントのクリニックにおいても部署間の壁で悩まれているところが増えています。クリニックのスタッフが 「チーム」 として一体化していくためにも、メンバーの存在や行動を認め合うことはきわめて重要なことと思います。とくにクリニックは 「女性の職場」 ですから、人間関係は非常に大切です。そんなことはわかっていると思われるかもしれませんが、わかっていても行動に移せないのが多くのクリニックの現状ではないかと思います。日々の診療に全力で取り組んでいると、そこまで検討できないのは当然です。そこで、今回は 「承認しあうこと」  「感謝を伝えあうこと」 を具体的な形で実践するツールである 「ありがとうカード」 と、部署間の業務改善を促す 「業務改善委員会」 を紹介します。

■感謝の気持ちが伝わる 「ありがとうカード」 
兵庫県のA内科(開業10年目)で導入している 「ありがとうカード」 は、A院長が感謝の気持ちから生まれる結束の強い組織風土を構築するための仕組みとして5年前に導入しました。導入したきっかけは、 「ホテルリッツカールトン」 の 「サンクスカード」 にA院長が感銘を受けたことでした。 「ありがとうカード」 はA内科の業務手帳にも明確に記載されており、 「ありがとうカード」 をA内科に定着させ、結束力のある組織にしたいというA院長の想いが込められています。
A内科の業務手帳には、 「ありがとうカードが行き交うようにする。1週間に1枚以上渡す」  「先輩および後輩の小さな行いにありがとうカードを渡す」 と記載されています。しかし、導入当初は 「ありがとうカード」 が行き交う状況にはなかなかなりませんでした。理由は、 「やってもらって当たり前」 という意識を持っているとまず書けないからです。
A内科のスタッフはこの 「ありがとうカード」 を書くたびに、感謝の気持ちを持つことは言うが易しで本当に難しいと実感しています。A内科で一番 「ありがとうカード」 を書いている受付事務スタッフOさんによると、 「ありがとうカード」 を書くコツは、ラブレターを書くように書くことだそうです。読者の皆様もラブレターを書いた経験のある方はおわかりになると思いますが、想いをよせる相手の行動をよく観察していたと思います。
想いをよせる相手をよく観察しているからこそ、相手のいいところがはっきりと見えてくるのです。Oさんはこのラブレターのような 「ありがとうカード」 を1週間に1枚出すおかげで、先輩後輩を問わずスタッフの行いを注意深く観察できるようになり、仲間のいいところに気づくことができ、仲間の行いに感謝できるようになったそうです。ただし、ハラスメントにならないように、敬意を言語化するようにしましょう。

■部署間の業務改善を促す業務改善委員会
 「ありがとうカード」 で感謝の気持ちを伝えることは大切ですが、それだけでは部署間の壁はなくなりません。この問題を解決するために行動している中国地方のT整形外科クリニック(開業13年目)の取り組み事例です。
T整形外科クリニックでは業務改善委員会を発足させ、各部署のグレーゾーンの仕事(他の部署にも協力してもらえたら助かる業務)を明確にして協力しあう体制を作っています。業務改善委員会は、各部署から比較的クリニックに協力的な人を選出して、部署内業務だけではなく、クリニック全体の業務をより効率的にやりやすくするためのミーティングを月1~2回委員会で話し合っています。業務改善委員会の決定事項は院長に決裁をとり、クリニック全体の決定事項となる仕組みになっています。業務改善委員会では 「喧々諤々」 の議論になる時もありますが、クリニック全体から見ると今の業務のあり方に問題はないかという視点を持つことができ、部署間の連携もスムーズになってきたとT院長は実感されています。

【2025. 3. 15 Vol.612 医業情報ダイジェスト】