診療報酬

コロナの影響は一体いつまで?-救急搬送の動向を検証する-

新型コロナウイルス感染症の影響は?
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
令和5年5月8日より、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類感染症に変更される。医療関係者にとっては、日頃の診療にかかる負荷だけでなく、度重なるルール変更や日常生活の制限に振り回される日々からの一応の解放となり、1つの節目を迎えることになる。

3年前を振り返れば、感染症拡大が報じられるのと同時に、入院や手術の制限、患者の受診控え等があり、医療機関によっては医業収益が半分以下に減った。その後は病床確保料や診療報酬上の臨時的な取扱い等により収益を持ち直した医療機関が多いものの、時限的措置が終了した後はどうなってしまうのか。アフター・コロナにあたり、本当に従来通りに患者は戻ってくるのか。今後の運営に不安を抱える経営者は多いのではないだろうか。
先行きが不透明なときは、まずは実状を数字で確認することが大切である。1例として、今回は救急搬送人員と救急搬送後の緊急入院の動向について確認しよう。

■新型コロナウイルス感染症の影響は?

消防庁が公表している「救急・救助の現況」より、過去10年の救急搬送人員の推移をまとめた(図1)。新型コロナウイルスの感染者が、国内で初めて確認された2020年は、救急搬送人員が対前年比で11%減少した。当時の事故種別の主な内訳を見ると、2020年は前年比で急病▲47万人、交通事故▲7万人、一般負傷▲6万人、運動競技▲1.8万人となっている。感染対策による急病患者の減少、外出控えやイベント中止による外傷患者の減少が要因として推測できる。
2021年に入ると、救急搬送人員は再び増加に転じている。感染患者の増加に加え、生活制限が徐々に緩和されるなかで、救急搬送人員も増えたのだろう。
2022年の結果はまだ公表されていないが、各地の消防局が公表する2022年の報告資料を個別に確認するかぎり、2021年の実績を上回ることはほぼ確実といえる。例えば、東京消防庁は、2022年の救急隊出動件数が87万2101件で過去最多を更新した。従来はコロナ禍直前の2019年が過去最高だった。地域差はあるだろうが、救急搬送件数が既にビフォア・コロナを上回っている地域は少なくない。

■緊急入院した救急搬送の動向は?

同じく各年の救急・救助の現況より、救急搬送後に入院となった人員数を確認した。図2は、過去5年間に急病で救急搬送された人員のうち、重症(長期入院)、中等症(入院診療)だった件数である。
消防庁の定義では、重症(長期入院):傷病程度が3週間以上の入院加療を必要とするもの、中等症(入院診療):傷病程度が重症または軽症以外のもの、軽症(外来診療):傷病程度が入院加療を必要としないものとしている。

この結果を見ると救急搬送による緊急入院は、少なくとも2021年時点でビフォア・コロナの水準にほぼ戻っており、前述したように2022年はそれを上回る可能性が高い。
スペースの関係上で図は省略するが、2020年以降の救急搬送は、2019年以前と比較して軽症の割合が減り、中等症、重症の割合が増加している。一方で、2021年の軽症の救急搬送人員は、2019年比で15%減少している。空いている病床を埋めるために、軽症患者が、中等症患者になっているケースが存在する可能性も否めないが、データを素直に信じるのであれば、救急搬送患者の重症度が上がっていることになる。

高齢者人口が増加すると、一般的に救急搬送は増加すると言われている。コロナ禍による一過性の減少があっても、結局は然るべき水準に戻るのだろうし、既に戻っているのだろう。
救急対応へのコロナ前後の変化は医療機関によってさまざまであろうが、少なくとも医療需要はアフター・コロナに突入している。

図1.救急搬送人員の推移

総務省「令和4年版 救急・救助の現況」

図2.重症、中等症の搬送患者数(急病のみ)



【2023. 5. 1 Vol.567 医業情報ダイジェスト】