診療報酬

攻めのダウンサイジングで室料差額を見直す

療養環境の充実を経営改善に活かす
株式会社メディチュア  代表取締役 渡辺 優

■療養環境の充実を経営改善に活かす

近年、新型コロナウイルス感染症への対策等で個室等の療養環境の整備を進めてきた施設が多い。個室を増やすことは、感染対策に加え、稼働率向上や患者満足度の向上、室料差額による収入増など、経営面でのプラスも期待できる。

室料差額の徴収金額の病床数分布を見ると、個室の最頻値は5千円台で1万円を超えるところも多い=グラフ1=。一方、2床室は千円台や2千円台が多く、5千円を超えるところはわずかである。さらに3床以上の多床室では、そもそも室料差額を徴収している割合が低い。

グラフ1 室料差額 病室タイプ別徴収金額分布

※ 病床比率は室料差額を徴収していない病床数も含めている各地方厚生局 保険外併用療養費医療機関名簿(2023 年5 月1 日または6 月1 日現在)を基に作成

高過ぎる室料差額の設定では個室の利用率が低下する。一方、低過ぎれば増収効果が薄れるため、どのぐらいの金額設定にするか悩ましい。また、個室希望の動向を左右する要素として、コロナ禍の特殊事情が生じている。具体的には、病室における面会制限を課している病院において、個室だけは条件を緩和しているケースがある。そのため、コロナ禍以前と異なり、積極的に個室を選ぶ患者がいるとの話を聞いている。病院を取り巻く環境が変化する中で、室料差額の見直しを検討する余地があるかもしれない。

■室料差額の高い東京周辺、低い東北・九州

個室の室料差額について都道府県別に平均金額(病床数の加重平均。室料差額を徴収しない病床は含めない)を比較すると、東京やその周辺が高い=グラフ2=。東京周辺や大阪などの大都市部は地価が高い。仮に個室の面積は同じであったとしても、コスト負担は大都市部の方が重くなる。また、最低賃金など収入面でも地域差が生じる。個室を利用する患者の金銭的な負担能力の差が反映されている可能性も考えられる。

グラフ2 室料差額 個室における平均徴収金額(都道府県比較)

※ 平均徴収金額は室料差額を徴収している病床数による加重平均。徴収していない病床は病床数に含めない各地方厚生局 保険外併用療養費医療機関名簿(2023 年5 月1 日または6 月1 日現在)を基に作成

■ 「守りの実質的なダウンサイジング」と「攻めのダウンサイジング」

室料差額の金額設定の妥当性は、アメニティの充実など療養環境の差異に大きく影響される。専用トイレの有無、個人の好みの温度設定ができるエアコンの有無などのハード面と、ある程度自由のきく面会条件や、隣人のいびきや物音などを気にしなくてよいソフト面の両面において、個室は多床室と大きく異なる。そのため、入院時の説明において患者の理解が得やすく、個室の稼働向上、室料差額の徴収額の増加に繋がりやすい。とはいえ、グラフ2からも明らかなとおり、室料差額は地域性に大きく左右される。当然、室料差額の設定と稼働率をかけあわせた収入の最大化が経営的に重要である。

コロナ禍で病床の稼働状況が大きく変わった病院も少なくない。また、診療報酬改定などの影響により病床の高回転化を進めた結果、稼働が低下しているところもあるだろう。季節的な変動も考慮した上で病床の稼働状況があまり高くなければ、病床数を減らす検討をすべきかもしれない。ただただ低稼働な状況を容認するのを「守りの実質的なダウンサイジング」とするならば、多床室を個室等に変更し療養環境の向上と室料差額の増収を期待するのを「攻めのダウンサイジング」と捉えることができる。今後の医療需要の動向を考えれば、大都市部などを除き全国の多くの地域でほぼ確実にダウンサイジングが求められるフェーズに移行する。このフェーズにおいて生き残るためには、攻めのダウンサイジングが重要になるはずである。


【2023. 7. 15 Vol.572 医業情報ダイジェスト】