組織・人材育成
その仕組みは本当に人材育成に有効なのか
必要在級年数や年齢制限はできるだけ廃止してはどうか
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
最近、組織の人材育成の仕組みを見ていて感じることは、大きな組織ほど従来の考え方にこだわり、逆に人材の成長を妨げてはいないかということです。例えば、昇格基準(等級を上げる基準)に必要在級年数を一定期間設け、事務部長には最短でも50歳にならないとなれないような基準を設けているところがあります。これは、従来の終身雇用の中で定年までを見据え、1つ1つ段階を経て育成していく仕組みと言えましょうが、医療の世界で定年まで勤めようという人がどの程度いるのだろうかと考えてしまいます。
大きな組織ほど、人材育成の仕組みが整備されているように見えますが、今の時代に本当に有効なのかを一度検証されるとよいと考えます。そこで、今回は、昇格基準や昇進基準の中の育成に向けた要件について考えます。
大きな組織ほど、人材育成の仕組みが整備されているように見えますが、今の時代に本当に有効なのかを一度検証されるとよいと考えます。そこで、今回は、昇格基準や昇進基準の中の育成に向けた要件について考えます。
必要在級年数や年齢制限はできるだけ廃止してはどうか
等級制度は、人事・賃金制度の骨格を定めたものですが、日本では能力主義が中心だったこともあり、昇格基準の中に必要在級年数が定められ、1等級で最低2年間は勤務し、その間に求められる能力を身に付ければ2等級に昇格できるという仕組みを入れているところが多いと思われます。職員を長い年数をかけて育成し、組織の理念を追求してくれる人材を定年までつなぎ留めておくための仕組みとも言えましょう。いかに優秀な人材でも、規程の年数を経過しないと昇格はできないことになります。さらには、年齢制限まで設けて、若い人は事務部長にはなれないことを昇進基準に定めているところまであります。
能力主義を否定するわけではなく、高い能力を一定期間かけて身に付けるようにすることも大事だとは思います。しかし、人材というのは多様であり、若くても、指導職や管理職をやりたい人もいないわけではありません。少子高齢社会において、若くて意欲のある人材のやる気を失わせるような仕組みは、止めてはどうかと考えます。少なくとも年齢制限は廃止すべきですし、必要在級年数も2年以内とし、育成段階の等級まではやむを得ないとしても、指導職以上の等級においては不要と考えます。
能力主義を否定するわけではなく、高い能力を一定期間かけて身に付けるようにすることも大事だとは思います。しかし、人材というのは多様であり、若くても、指導職や管理職をやりたい人もいないわけではありません。少子高齢社会において、若くて意欲のある人材のやる気を失わせるような仕組みは、止めてはどうかと考えます。少なくとも年齢制限は廃止すべきですし、必要在級年数も2年以内とし、育成段階の等級まではやむを得ないとしても、指導職以上の等級においては不要と考えます。
昇進基準の要件としてのジョブローテーション
大きな組織ほど、昇進基準の中に、複数の部署の経験を要するといった基準が定められているのを見かけます。例えば、課長職に就くには、それまでに3ケ所以上の部署を経験していなければならないといった要件です。マネジメント力などの能力開発を目的に、定期的な部署異動や職務の変更を通じて職員にさまざまな業務を経験させる制度をジョブローテーションと言います。この制度を昇進基準に反映させ処遇にもつなげているわけです。
ジョブローテーションは、単なる欠員補充などの異動とは異なり、終身雇用の下で中長期を見据え、人材育成を行うための制度です。この仕組みを昇進基準に入れることにより、ジョブローテーションを推進することになりますが、病院のように、終身雇用など関係のない組織において、誰もが一律にいくつかの部署や職務を経験するように仕向けることが、有効な人材育成につながるかは疑問です。例えば、一定期間で業務が変わってしまっては、特定の業務の知識や技術を深く理解し身に付けることは難しいでしょう。優秀な医事課長を育てるには、診療報酬の深い知識が必要であるにもかかわらず、2年に1回の改定がある中で、他の職務に異動させていたのでは、診療報酬に精通した医事課長を育てることは困難と言わざるを得ません。すなわち、ジョブローテーションは、スペシャリストの養成には不向きなのです。
一般的にジョブローテーションが不向きと言われる組織の特徴は、次の4つです。①業務の専門性が高い、②終身雇用という風土がなく中長期での人材育成が困難、③部署によって勤務体系や処遇が異なる、④異動できる部署や職種が少ない。病院の看護職や医療技術職には明らかに不向きな仕組みであり、実態としてはほとんど行われていないと思いますが、事務など資格を有さない職種においては、病院でもジョブローテーションを行っているところがあります。実際に公的病院等で人事・賃金制度を構築している途中に、人事部長が異動となり構築がストップするということを何度か経験しています。大きなプロジェクトを遂行する場合も、ジョブローテーションが妨げになることがあります。人事部長を3年経験したから他の部署に異動させるというよりも、今取り組んでいるプロジェクトを完成させることのほうが、その人材の育成に効果があるのではないでしょうか。
さらには、大学院を卒業したようなポテンシャルの高い人材であっても、最初は現場の単純定型業務を経験させるといったルールを入れているところもありますが、このように一律同じような配置をすることは本当に必要なのでしょうか。これからは、全員を同じルールの中で育成するのではなく、一人ひとりのキャリアビジョンを共に考え、育成していかなければなりません。そのためには、一律の基準やルールは不要と考えます。
【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】
ジョブローテーションは、単なる欠員補充などの異動とは異なり、終身雇用の下で中長期を見据え、人材育成を行うための制度です。この仕組みを昇進基準に入れることにより、ジョブローテーションを推進することになりますが、病院のように、終身雇用など関係のない組織において、誰もが一律にいくつかの部署や職務を経験するように仕向けることが、有効な人材育成につながるかは疑問です。例えば、一定期間で業務が変わってしまっては、特定の業務の知識や技術を深く理解し身に付けることは難しいでしょう。優秀な医事課長を育てるには、診療報酬の深い知識が必要であるにもかかわらず、2年に1回の改定がある中で、他の職務に異動させていたのでは、診療報酬に精通した医事課長を育てることは困難と言わざるを得ません。すなわち、ジョブローテーションは、スペシャリストの養成には不向きなのです。
一般的にジョブローテーションが不向きと言われる組織の特徴は、次の4つです。①業務の専門性が高い、②終身雇用という風土がなく中長期での人材育成が困難、③部署によって勤務体系や処遇が異なる、④異動できる部署や職種が少ない。病院の看護職や医療技術職には明らかに不向きな仕組みであり、実態としてはほとんど行われていないと思いますが、事務など資格を有さない職種においては、病院でもジョブローテーションを行っているところがあります。実際に公的病院等で人事・賃金制度を構築している途中に、人事部長が異動となり構築がストップするということを何度か経験しています。大きなプロジェクトを遂行する場合も、ジョブローテーションが妨げになることがあります。人事部長を3年経験したから他の部署に異動させるというよりも、今取り組んでいるプロジェクトを完成させることのほうが、その人材の育成に効果があるのではないでしょうか。
さらには、大学院を卒業したようなポテンシャルの高い人材であっても、最初は現場の単純定型業務を経験させるといったルールを入れているところもありますが、このように一律同じような配置をすることは本当に必要なのでしょうか。これからは、全員を同じルールの中で育成するのではなく、一人ひとりのキャリアビジョンを共に考え、育成していかなければなりません。そのためには、一律の基準やルールは不要と考えます。
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2025-05-27「疑義解釈資料の送付について(その26)」を追加しました
2025-05-26
「疑義解釈資料の送付について(その25)」を追加しました
2025-05-03
「疑義解釈資料の送付について(その24)」を追加しました
[お知らせ]
2025-05-07【セミナーのご案内】新社会システム総合研究所主催「ミクロとマクロのデータ分析による エビデンスある病院経営戦略」
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