組織・人材育成
人件費の捻出と賃金改善
管理職以上の賃金改善の一方策
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
最近は、人材の採用に苦慮している病院が多く、その原因が自院の賃金水準にあるということで、賃金に関するご相談が増えています。また、賃金表が存在しない病院もまだ散見され、さすがに職員数が500名程になってくれば、賃金表の整備と合わせ、賃金水準を見直したいと考えられるようです。
賃金改善のための原資を容易に用意できればよいのでしょうが、病院の経営が厳しい今日、何かを止めるなどして、原資を作らなければならないものと思われます。その1つに退職金制度の見直しが考えられます。その原資を活用して、採用に苦戦している若年層の賃金改善を進めることと、病院の賃金制度の課題として、管理職の賃金等に魅力がなく、管理職不足という実態がありますので、この部分にも配分する必要があると思われます。
そこで今回は、退職金制度の見直しによる人件費の捻出と賃金改善について考えます。
賃金改善のための原資を容易に用意できればよいのでしょうが、病院の経営が厳しい今日、何かを止めるなどして、原資を作らなければならないものと思われます。その1つに退職金制度の見直しが考えられます。その原資を活用して、採用に苦戦している若年層の賃金改善を進めることと、病院の賃金制度の課題として、管理職の賃金等に魅力がなく、管理職不足という実態がありますので、この部分にも配分する必要があると思われます。
そこで今回は、退職金制度の見直しによる人件費の捻出と賃金改善について考えます。
退職金の役割と支給要件
退職金の主な役割は、①在職中の功労に対する報酬(功労報奨)、②老後の生活保障(老後保障)、③労働力の定着と永年勤続の期待(勤続奨励)、④在職中の賃金のうち支払っていない一部分の蓄積(賃金後払い)の4点でしょう。そして、現代の退職金の役割として重要なものは、①の功労報奨と③の勤続奨励ではないでしょうか。在職中に組織に貢献した人に、その労に報いるために退職金を支払うということであれば、職員は組織のために頑張ってくれるものと考えます。また、5年勤務すれば、退職金が受け取れるということであれば、5年は勤めようと思ってくれるかもしれません。これらの役割は、退職金の支給方法等がそのような役割が果たせるように作られていれば、退職金の機能として重要なものであると考えます。
例えば、ポイント制退職金制度で、在職中の役職や人事評価の結果が退職金に反映されるような仕組みであれば、功労報奨の役割が果たせるでしょうが、勤続年数と退職時の月額給与で退職金額が決まるような仕組みでは、功労報奨の役割を果たすことはできないでしょう。後者の退職金制度であれば、ポイント制退職金制度に切り替え、非役職者や人事評価の結果が思わしくない職員のポイントを抑えることで、賃金改善の原資が捻出できると考えます。
また、長年、退職金制度を見直さないで運用している場合、勤続年数1年以上で支給しているところもありますが、これを5年にすれば、賃金改善のために、かなりの原資が確保できるはずです。日本看護協会の「2022年病院看護実態調査」では、看護職員の離職率が増加し、正規雇用看護職員11.6%(対前年比1.0ポイント増)、新卒採用者10.3%(同2.0ポイント増)、既卒採用者16.8%(同1.9ポイント増)となっています。また、2013年日本医労連の調査では、勤続5年未満で退職する人が4割弱という数字が出ており、退職金の勤続年数の要件を5年以上とすれば、かなりの人件費が浮くものと推察します。
ちなみに、医療経営情報研究所が、2015年4月に行った病院の退職金についての調査で、退職金受給に必要な最低勤続年数を調べた内容(自己都合退職)を表に示しました。3年が最も多いのですが、5年、6年というところもないわけではありません。勤続年数が短くては、組織への貢献度合いは低いわけですし、勤続奨励という意味では5年以上が妥当と考えます。
看護師の年間採用数は、病院によっては、かなりの人数だと思いますので、これから採用する人から5年の要件を適用することにしても、今後5年間で人件費をかなり削減できるはずです。したがって、その金額を賃金改善にまわしてはどうかと考えます。
例えば、ポイント制退職金制度で、在職中の役職や人事評価の結果が退職金に反映されるような仕組みであれば、功労報奨の役割が果たせるでしょうが、勤続年数と退職時の月額給与で退職金額が決まるような仕組みでは、功労報奨の役割を果たすことはできないでしょう。後者の退職金制度であれば、ポイント制退職金制度に切り替え、非役職者や人事評価の結果が思わしくない職員のポイントを抑えることで、賃金改善の原資が捻出できると考えます。
また、長年、退職金制度を見直さないで運用している場合、勤続年数1年以上で支給しているところもありますが、これを5年にすれば、賃金改善のために、かなりの原資が確保できるはずです。日本看護協会の「2022年病院看護実態調査」では、看護職員の離職率が増加し、正規雇用看護職員11.6%(対前年比1.0ポイント増)、新卒採用者10.3%(同2.0ポイント増)、既卒採用者16.8%(同1.9ポイント増)となっています。また、2013年日本医労連の調査では、勤続5年未満で退職する人が4割弱という数字が出ており、退職金の勤続年数の要件を5年以上とすれば、かなりの人件費が浮くものと推察します。
ちなみに、医療経営情報研究所が、2015年4月に行った病院の退職金についての調査で、退職金受給に必要な最低勤続年数を調べた内容(自己都合退職)を表に示しました。3年が最も多いのですが、5年、6年というところもないわけではありません。勤続年数が短くては、組織への貢献度合いは低いわけですし、勤続奨励という意味では5年以上が妥当と考えます。
看護師の年間採用数は、病院によっては、かなりの人数だと思いますので、これから採用する人から5年の要件を適用することにしても、今後5年間で人件費をかなり削減できるはずです。したがって、その金額を賃金改善にまわしてはどうかと考えます。
表: 退職金受給に必要な最低勤続年数
(回答76病院、単位%)


管理職以上の賃金改善の一方策
若年層の賃金改善については前回説明しましたので、今回は、管理職層の賃金改善について考えます。賃金制度が十分整備されていない病院の管理職の基本給の問題点は、一般職の基本給とあまり水準が変わらないことです。「管理職手当を支給しているのだから基本給は同じでよい」と考える方もいますが、仕事の違いは、きちんと基本給に反映させるべきでしょう。
しかし、管理職の基本給をいきなり持ち上げたのでは、かなりの原資を要することになります。そこで、原資を抑える1つの方法としては、基本給と管理職手当を合算して、新たな基本給を作ることです。この両者を加えた金額に若干プラスして、人事評価でBレベルの金額を設定し、そこから1万円程度の格差で、S・A・C・Dの評価の金額を決めて、業績給としてはどうでしょうか。すなわち、管理職以上には、人事評価の結果によって、基本給が上がったり下がったりする賃金表を推奨します。
【2023. 8. 15 Vol.574 医業情報ダイジェスト】
しかし、管理職の基本給をいきなり持ち上げたのでは、かなりの原資を要することになります。そこで、原資を抑える1つの方法としては、基本給と管理職手当を合算して、新たな基本給を作ることです。この両者を加えた金額に若干プラスして、人事評価でBレベルの金額を設定し、そこから1万円程度の格差で、S・A・C・Dの評価の金額を決めて、業績給としてはどうでしょうか。すなわち、管理職以上には、人事評価の結果によって、基本給が上がったり下がったりする賃金表を推奨します。
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2025-05-07【セミナーのご案内】新社会システム総合研究所主催「ミクロとマクロのデータ分析による エビデンスある病院経営戦略」
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