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大腿骨近位部骨折 早期治療へのインセンティブ

「緊急整復固定加算」「緊急挿入加算」
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
高齢者の大腿骨近位部骨折に対する適切な治療を評価する観点から、骨折観血的手術 (大腿)に対する「緊急整復固定加算」及び人工骨頭挿入術 (股)に対する「緊急挿入加算」が新設された。

 緊急整復固定加算 4,000点
 緊急挿入加算 4,000点

<算定要件>
  •  75歳以上の大腿骨近位部骨折患者に対し、適切な周術期の管理を行い、骨折後4 8時間以内に骨折部位の整復固定を行った場合に、1回に限り所定点数に加算する。
  •  一連の入院期間において区分番号「B001」の「34」の「イ」二次性骨折予防継続管理料1を算定する場合に限る。
  •  当該手術後は、早期離床に努めるとともに、関係学会が示しているガイドラインを踏まえて適切な二次性骨折の予防を行う。
  •  診療報酬明細書の摘要欄に骨折した日時及び手術を開始した日時を記載する。

■病院間に実際にどの程度の差があるか?

今回新設された緊急整復固定加算、緊急挿入加算は、いずれも骨折後48時間以内に治療を行った場合の評価である。
一般的に緊急入院が前提となる手術では、病院間で平均術前日数に差が出やすい傾向があるが、2つの加算の対象となる術式ではどうだろうか。

DPC参加病院では、ほとんどの病院がホームページ上で「病院指標」を公開している。件数の多い術式に限られるが、緊急整復固定加算、緊急挿入加算の対象術式となる「K0461 骨折観血的手術(肩甲骨,上腕,大腿)」、「K0811 人工骨頭挿入術(肩,股)」に関する各病院の術前日数、術後日数を確認することができる。
図にX市のDPC 対象病院における「K0 4 61 骨折観血的手術(肩甲骨,上腕,大腿)」、「K0811 人工骨頭挿入術(肩,股)」の平均術前・術後日数をまとめた。
骨折観血的手術(肩甲骨,上腕,大腿)を見ると、平均術前日数はA病院、C病院の1.5~1.6日に対して、もっとも長いD病院では8. 9日であった。
緊急整復固定加算は骨折後48時間以内の整復固定が要件になるため、平均術前日数が3日を超えるようなケースでは、現状のままでは算定がかなり限られる可能性がある。
人工骨頭挿入術(肩,股)は、A病院が平均術前日数2.9日でもっとも短く、長いB病院、D病院では1週間を超えている。緊急挿入加算は、このままでは算定できるケースがかなり限られてしまいそうだ。
ただし、病院指標で公開されている情報では、骨折観血的手術は大腿、人工骨頭挿入術は股に限定されないため、比較する際はその点に留意が必要になる。



■早期手術により平均在院日数はさらに短縮へ

骨折で緊急入院した患者を早期に手術することは、医療の質の観点からも望まれることだろう。早期治療にインセンティブがついたことで、もともと術前日数が短い病院にとっては、これまで通りにやれば収入増につながる。骨折観血的手術や人工骨頭挿入術は、多い病院では年間数百件を実施しているため、入院収益に与える影響は小さくない。何らかの理由で術前日数が長くなっていた病院では、術前日数を短縮するための取り組みが求められるだろう(もちろん諦めるという選択肢もあるが)。
 D P C / P D P S の診断群分類では、「160800x x01x x x x 股関節・大腿近位の骨折人工骨頭挿入術等」に該当する。当該診断群分類は、改定のたびに入院期間の設定が短縮しており、2014年制度では入院期間Ⅱが28日だったが、2022年制度では22日になった。地域包括ケア病棟等の活用による入院の機能分化が進んだ影響も大きいが、わずか10年程度の間にDPC病床の平均在院日数は1週間近く短縮したことを意味する。

在院日数の短縮は、病床単価や効率性係数、看護必要度等に影響する。さらに今改定の見直しにより、DPC/PDPDSは入院初期をより重点的に評価する体系に見直されたため、在院日数の短縮のインセンティブは、より一層強くなった。
さらに緊急整復固定加算、緊急挿入加算が新設されたことで、術前日数を短縮するインセンティブも強まり、入院全体の平均在院日数はさらに短縮することが予想される。


【2022. 7. 1 Vol.547 医業情報ダイジェスト】