病院

高い診療実績要件が都市部と地方部の病院経営の明暗を分ける

なぜ急性期充実体制加算の点数は高いのか
株式会社メディチュア  代表取締役 渡辺 優

■なぜ急性期充実体制加算の点数は高いのか

2022年度改定で新設された急性期充実体制加算は、総合入院体制加算の点数設定を上回る高い点数が設定されたことや、敷地内薬局を設置している医療機関がNGとなることなど、多くの点で驚きがあった。
急性期充実体制加算の高い点数設定の背景には、次の2点があると理解している。1点目は、日頃から高度な医療機能を発揮する施設が積極的にコロナの重症患者を受け入れたことなどを踏まえた診療機能の充実した施設に対する評価。総合入院体制加算は1日当たり点数が経過日数によらず一定であるのに対し、急性期充実体制加算は入院初期の点数を手厚くしている。これは、積極的なコロナ患者の受け入れには病床を空けておく必要があり、病床の高回転化を診療報酬点数で促す意味があると考えている。
2点目は、高い診療実績を有する施設は医療の質などでも充実していることを踏まえた評価。特定の術式の実施件数が多くなれば、それだけ医療チームも熟練度合いが高まり、診療の質が向上すると言われている。直接的に質を評価するのは難しいものの、診療実績の高いハードル設定により間接的に評価している。医療機関が要件クリアを目指すことで、医療機関の集約化・機能分化などを促す側面もあるだろう。地域医療構想の取り組みを診療報酬で後押しする意味もあるのかもしれない。そのため、急性期充実体制加算の届出施設では、地ケアなどの届出がNGになっていると思われる。

■ 急性期充実体制加算の届出にはある程度の病床規模が必要

直近の急性期充実体制加算および総合入院体制加算の届出施設数について、病床規模別に見た=グラフ1=。全身麻酔の手術件数や救急搬送件数など、高い診療実績を満たすには、ある程度の病床規模が必要であることがわかる。なお300床未満の施設にはそれぞれ1床当たりの要件が設定されているものの、現実的に要件クリアのハードルは非常に高い。

グラフ1  病床規模別 急性期充実体制加算・総合入院体制加算 届出施設数


二次医療圏ごとの急性期充実体制加算の届出施設を数えた=グラフ2=。医療圏の6割以上は、急性期充実体制加算の届出施設がなかった。一方、大阪市医療圏は12施設、横浜医療圏は11施設など、20医療圏では3施設以上が届け出ていた。

グラフ2  二次医療圏別 急性期充実体制加算 届出施設数


大阪市・横浜の各医療圏は200万をはるかに超える人口を抱えており施設数も多い。そのため、急性期充実体制加算の届出施設数が多いことは当たり前である。

■病床規模に加え、ある程度のエリア人口も必要か

一般病床を有する施設を対象に、病床規模、および二次医療圏人口別に急性期充実体制加算などの届出状況を見た=グラフ3=。

グラフ3  病床規模・二次医療圏人口別 急性期充実体制加算・総合入院体制加算 届出施設割合


400床未満は、二次医療圏人口にかかわらず急性期充実体制加算の届出施設割合が低い。一方、400床以上に着目すると、二次医療圏人口が10万人以上では急性期充実体制加算の届出施設が2割から3割強あるのに対し、二次医療圏人口が10万人未満のエリアではそもそも400床以上の施設が少ない上に、急性期充実体制加算の届出施設がない。

この結果から、高い診療実績が求められる急性期充実体制加算の届出には、ある程度のエリア人口が必要であることがうかがえる。なお、二次医療圏人口10万人未満の400床以上の施設の多くは、地域包括ケア病棟入院料の届出を行っていることも気になる。これらの施設では、間違いなく急性期の基幹病院としての役割を果たしている一方で、後方病床の機能を担うことも地域から求められているのだろう。急性期充実体制加算の点数設定の高さには納得している。しかし、地域で重要な役割を担う病院が要件を満たせず経営が厳しくなりかねないだけに、診療報酬制度上やそれ以外での配慮が不可欠だろう。


【2024. 2. 15 Vol.586 医業情報ダイジェスト】