診療所

診療費を支払わない患者さんへの対処法について

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

開業15年目の内科系有床診療所の院長より「当院の顧問税理士から決算期末で本当に滞っている診療の未収金が300万円近くあるという報告を受けました。また、2年ぐらい回収できていない未収金もあるようです。
診療費を支払わない患者への対処はどうすればよいのでしょうか」というご相談を頂きました。

【回  答】

今回は診療費を支払わない患者さんへの対処法についてポイントをお伝えします。

1.診療費を支払わらない患者さんへ対処するポイント
まず大事なポイントは次の3つです。
  1.  未収金があっても直ちに診療拒否はできない(正当な事由による診療拒否とはならない)。
  2.  クリニック全体(組織対応)で金額、時効などの法律的な知識を共有し、各部署と連携しながら対応する。
  3.  「治療費の支払いのお知らせ」文書作成の仕組みと院内で統一した電話催促で未収金回収を促進させる。
 
2. 未収金のある患者に対して診療を拒否することは可能か?
「直ちにはできない」といわざるを得ません。いわゆる「医師の応召義務」として、医師法は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(第19条第1項)と規定しており、診療報酬の未払いがここにいう「正当な事由」に当たるかが問題になります。この点、昭和24年の旧厚生省の通知では、「診療報酬が不払いであっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない」としています。緊急を要する診療でなければ診療拒絶しても問題になる可能性は低いですが、治療すべき緊急性があれば救急外来でなくても診療の応召義務があるので注意が必要です。

3.未収金の回収で、クリニック内で気をつけること
①回収担当者の負担を軽減
回収は院内のスタッフに精神的な負担が相当かかります。未収金の問題を担当スタッフだけの問題とすることなくクリニック全体の問題とし、スタッフを固定しないようにすべきです。院長は十分な理解をして愚痴を聞いてあげるなどの配慮も必要です。給与面で特別手当を支給しているところもあり、実状に合わせた配慮を考えましょう。
②未収金に関する法的知識を持つ
診療費の未収金の時効は3年です。未収金によっては弁護士と相談して支払督促の申立等の裁判上の手続を行う必要があります。
③未収金はクリニック全体で視覚化・共有化
各部署の未収金情報を視覚化・共有化することが大事です。クリニック全体を巻き込み、各部署で連携して回収に努めましょう。

4. 「治療費の支払いのお知らせ」文書作成の仕組みと統一した電話催促で未収金回収を促進させる 
治療費のお支払のご案内(1回目、2回目)、示談契約書などを、ワードやエクセルなどのソフトを活用して簡単に作成~郵送できる仕組みをつくり、電話で未収金回収を促進させることをお勧めしております。

下記に電話催促を行う際のポイントをまとめました。

<電話のかけ方の注意点(マニュアル事例)>
  1.  顔が見えない分、対面のときより1トーン明るめに話す。ただし、声は高くなりすぎないように。
  2. 語尾をのばさない。
  3. 略語・専門用語は用いない。
  4.  相手の話すスピードに合わせる(早めの人にはテンポよく(早口は×)、ゆっくりな人にはゆっくりと)。
  5.  適度な相づち(安易に相づちを打ちすぎると、かえって話を真剣に聞いてないように聞こえるので、回数を加減する、変化をつける、など工夫を)。
  6.  反対言葉を用いない(「でも」「ですが」「しかし」「お言葉を返すようですが」など)。
  7.  患者さん本人を確認してから、名乗り、話を進める。
  8. 患者さんの話(払えない理由など)をよく聞く。
  9.  相手の話し方・言葉遣いによっては、杓子定規な敬語より、少し親しい話し方のほうが、相手が話しやすい場合もある(「さようでございますか」→「そうですか」)。

<電話で確認する事項(マニュアル事例)>
  1.  電話連絡は、手紙請求ではわからない話の内容・患者の返事のニュアンスなどを確認できるので注意して聞く(録音も検討する)。
  2.  電話連絡におけるやりとりは、後日、重要な資料となるため、要点だけでなく、最大限、相手の言葉遣いどおりに記録する(録音も検討する)。
  3. 反対に回答を求められても、即答しない。
  4.  電話連絡では、①滞納の理由、②支払期日(○○頃ではなく、具体的に期限を特定する)、③支払原資の3点を確認する。
  5.  丁寧な言葉遣い・対応を心がけながらも、本気で未収金の回収に努めていることを、相手に伝える(決めた支払期日の前後には必ず連絡し、忘れていないことを知らせる、など)。
  6. 連絡がない相手を放置しない(こまめに連絡をとる)。

上記のポイントや事例をご参考に自院に合った未収金対応の仕組みを作って頂きたいと思います。


【2022. 11. 15 Vol.556 医業情報ダイジェスト】