診療所

院長夫人が力を発揮するための3つのポイント

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で開業2年目の整形外科クリニックの院長より「開業以来、私が孤軍奮闘で、診療以外の事務も含めてクリニックの経営に関わることをすべて担ってきましたが、患者数もスタッフ数も増えたこともあり、時間的にも体力的にも限界がきています。この先、長くクリニックを運営していくために妻にクリニックを手伝ってもらうことになりました。
妻がクリニックを手伝うとデメリットが多いと聞きますが、どういった点を注意したらよいか教えてもらいたい」というご相談をいただきました。

【回  答】

以前は「スタッフとの間でトラブルになりやすいから、院長夫人はできるだけ現場の仕事にかかわらない方がいい」とクライアントの院長に説明してきましたが、最近は看護師も事務スタッフも何かあるとすぐに辞めてしまうなどクリニックの運営が安定しないケースが目立ちます。以前とは状況が変わってきたので、院長の補佐的なマネジメントの役割と急な欠員が生じてもカバーできるよう院長夫人に普段から業務を担ってもらう方がよいと考えるようになりました。
とはいえ院長夫人がクリニックの業務に携わると、スタッフとの人間関係などさまざまな問題に直面することが少なくありません。クリニック経営において院長夫人の力を生かすための三つのポイントをお伝えします。

ポイント1.夫婦でクリニック経営の問題点を共有する場をつくる(同一の危機感をもつ)
院長から見えるクリニック経営の問題点、院長夫人から見えるクリニック経営の問題点をお互いに共有する場を作っていただきたいと思います。経営コンサルタント、税理士、社労士などの顧問の専門家に入ってもらいながらクリニック経営における問題を共有し、同じ危機感を持つようにしておくことをお勧めします。

ポイント2.院長夫人の職務権限の範囲と役職名を明確化する
院長夫人が事務長などの管理職としてクリニックの業務に携わる場合、問題になりやすいのが院長と夫人の職務権限のすみ分けです。勤務シフトの作成など、日々の運営面は院長夫人に任せるとしても、診療や経営方針などに関する意思決定は院長自身が行ったほうがクリニックの運営はうまくいきます。権限を明確にしておかないと、本来であれば院長が意思決定すべき分野に夫人が介入してトラブルになることもあります。

トラブル事例として、10年前、弊社のクライアントでこんなケースがありました。院長夫人がある日突然、本人の思いつきで人事評価のための個人面談を実施して、スタッフの一人に対し、「あなたは常勤スタッフとしての仕事ができていないから、パートになってもらうかも」と通告してしまったのです。院長はそもそもパートにする気などなく、面接の事実も後で知らされました。結局、院長夫人の言葉にショックを受けたスタッフは自ら辞めてしまいました。
院長が意思決定した内容をスタッフに伝える場合に、院長自身の口から説明することも、心がけておきたい点です。院長夫人一人で伝えると、「本当に院長はそう思っているのか?」とスタッフが疑ったり、反発を招く恐れがあります。「今期のボーナスは弾んでおくわよ」などと、夫人が待遇に関する説明をすると、「私たちは奥さんから給料をもらっているわけではない」と反感を持たれやすいので、待遇面については良いことも悪いことも院長かコンサルタントなど顧問の専門家が同席のもとスタッフへお伝えいただくことをお勧めします。
また、意外に軽視されがちですが、院長夫人の呼び方は「奥さん」「奥様」「〇〇さん(お名前)」ではなく、職場の上司としてふさわしい役職名(「マネージャー」「チーフ」「事務長」など)をつけることをお勧めします。

ポイント3.業務分担し院長夫人は業務を抱えすぎない
一口にクリニックの業務といっても、その内容は多岐にわたります。院長夫人がどこまで担うのかを明確にせず、場当たり的に手伝ってもらっていたのでは、本人も周りのスタッフも混乱しかねません。院長夫人がクリニックの現場に入る場合、私どもは表のような業務分担表を作成し、クリニック内で共有するよう伝えております。
院長夫人が多くの業務を抱えすぎると、どうしても細かいところまで目が行き届かなくなってしまいます。スタッフに委ねたり、業務委託が可能な部分は外注することも検討したほうがいいでしょう。子育てなどで時間的な制約がある場合は、診療現場に出ずに裏方の仕事のみ担当するのも現実的な選択肢です。

弊社のクライアント様の関西地方のH内科クリニックでは、子育て中の院長夫人が税理士、社労士とのやりとりや院内外の清掃などに限定する形で業務に携わっています。同クリニックでは給与計算などは外部委託しており、外注先の企業やコンサルタントなどのブレーンをうまく活用しながら業務を回しています。
 最初からすべての業務を抱えず外部ブレーンを活用してご自身の守備範囲を決めていただくことをお勧めします。




 【2022. 5. 1 Vol.543 医業情報ダイジェスト】