診療所

職場の雰囲気や部門間連携を促進させた事例

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

開業10年目の内科クリニックの院長からの相談です。
「常勤スタッフとの半年に1回の個人面談が終わりました。大きな問題はないのですが、今まで同様に、各部署間の壁というか、小さなレベルの仕事の押し付けあいが、なんとなくスタッフ間の不信につながり、それがクリニックの不満になっていると感じます」

【回  答】

私どものお客様も部署間の壁で悩まれているところが増えています。クリニックのスタッフが「チーム」として一体化していくためにもメンバーの存在や行動を認め合うことはきわめて重要なことと思います。とくにクリニックは「女性の職場」ですから、人間関係は非常に大切です。そんなことはわかっていると思われるかもしれませんが、わかっていても行動できないのが多くのクリニックの現状ではないでしょうか。日々の診療に全力で取り組んでいると、そこまで検討できないのは当然です。そこで、今回は「承認しあうこと」「感謝を伝
えあうこと」を具体的な形で実践するツール「ありがとうカード」と、部署間の業務改善を促す「業務改善委員会」をご紹介いたします。

(1)感謝の気持ちが伝わる「ありがとうカード」
兵庫県のA内科(開業10年目)で導入している「ありがとうカード」を紹介いたします。「ありがとうカード」は、感謝の気持ちから生まれる結束の強い組織風土を構築するための仕組みとして、A院長が5年前より導入したものです。きっかけは、ホテルリッツカールトンの「サンクスカード」にA院長が感銘を受けたことでした。
A内科の業務手帳には、「ありがとうカードが行き交うようにする。1週間に1枚以上渡す」「先輩および後輩の小さな行いにありがとうカードを渡す」と記載されています。「ありがとうカード」をクリニックに定着させ結束力のある組織にしたいというA院長の想いが込められています。

(2) 実際は書くのが難しい!書くコツはラブレターを書く気持ちで!
「ありがとうカード」を導入して5年も経過すると、A内科のスタッフにも「ありがとうカードが行き交う雰囲気を大切にしたい」という想いが芽生えはじめています。
しかし、いざカードを書こうと思ってもなかなか書けません。「やってもらって当たり前」という意識を持っているとまず書けないからです。A内科のスタッフは、この「ありがとうカード」を書くたびに、感謝の気持ちを持つことは言うは易しで本当に難しいと実感しています。A内科で一番「ありがとうカード」を書いている受付事務スタッフOさんによると、カードを書くコツはラブレターを書くように書くことだそうです。読者の皆様もラブレターを書いた経験のある方はおわかりになると思いますが、ラブレターを書くときには想いをよせる異性の行動をよく観察していたと思います。相手をよく観察しているからこそ、相手のいいところがはっきりと見えてくるのです。Oさんはラブレターのような「ありがとうカード」を1週間に1枚だけ出すおかげで、先輩後輩を問わずスタッフの行いを注意深く観察できるようになり、仲間のいいところに気づくことができ、仲間の行いに感謝できるようになったと言います。

(3)部署間の業務改善を促す業務改善委員会
「ありがとうカード」で感謝の気持ちを伝えることは大切ですが、それだけでは部署間の壁はなくなりません。この問題を解決するために行動している中国地方のT整形外科クリニック(開業13年目)の事例を紹介します。
T整形外科クリニックでは業務改善委員会を立ち上げ、各部署のグレーゾーンの仕事(他の部署にも協力してもらえたら助かる業務)を明確にして協力しあう体制を作っています。業務改善委員会は各部署から比較的クリニックに協力的な人を選出して、部署内業務だけではなくクリニック全体の業務をより効率的にやりやすくするために月1~2回ミーティングを行っています。業務改善委員会の決定事項は院長に決裁をとりクリニック全体の決定事項となります。業務改善委員会では喧々諤々の議論になる時もありますが、「クリニック全体から見て今の業務のあり方に問題はないか」という視点を持つことができ、部署間の連携もスムーズになってきたとT院長は実感されています。

部署間連携という課題はどこのクリニックにも存在する課題でしょう。ぜひ、この課題に自院に合う形でにチャレンジしていただきたいと思います。


【2024. 1. 15 Vol.584 医業情報ダイジェスト】