組織・人材育成
新人さんが泣いちゃった
相手に向き合うことの意味について考える
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
新しい年度を目前に、新卒職員を迎えるための教育体制の準備が始まっているところも多いと思います。世代の違う新人さんに対してどう向き合えばよいか、準備をすればするほど不安に思うという声も耳にしていますが、皆さまの組織ではいかがですか?今回は、新人さんとの関わりのなかで涙を流されてしまったことで困惑する組織のお話を共有いたします。
ケース
中国地方にあるクリニック(病床あり)のお話です。このクリニックはさまざまな事業所を持つ法人に属しており、定期的に新人さんが入職しています。今年は数年ぶりに新卒職員の入職がありました。新人さんを大切に育てようと、クリニックに勤める職員のなかでも比較的若く、指導ができるAさんが新人さんの指導に当たることになりました。
ある日、急患患者が来るという連絡がクリニックにあったその時、 「今のうちに休憩行ってきます!」 と新人さんはAさんに宣言して休憩に行ってしまいました。確かに休憩に入る時間が無いほど忙しかったのですが、急いで急患用の準備をする人員が足りないなかで休憩宣言をしてしまった新人さんは、その宣言通り休憩に入ったのでした。その結果、十分な準備が行えないまま急患対応は行われ、通常業務にも多大なる支障が出てしまいました。
新人さんの教育担当であるAさんは新人さんに声を掛けました。
Aさん 「 (優しいトーンで)お仕事お疲れ様。今日の休憩の入り方なんだけど、せめて準備をしてほしかったのだけど……」
すると、その休憩の入り方について具体的な指導をしようとした途端に新人さんは涙を目いっぱいに貯め、Aさんの目の前から走っていなくなってしまったのでした。
Aさん 「本当に困ってしまいました……私はどう声を掛けたらよかったのでしょうか? 『新人さんは悪くないよ』 という声掛けから入るべきだったのでしょうか、それとも 『よく頑張っているね』 という声掛けでしょうか……。でも悪くないことはないし……その出来事から私は新人さんに対して腫れ物に触るような接し方になってしまっています」
筆者 「実際の会話でどのような言動だったか分からないので今のご報告の範囲でAさんの対応内容を振り返ると、決してAさんに大きな非があるとは思えません。むしろ新人さんに対して 『傷つけてはいけない』 という緊張感や不安感があるように思います」
Aさん 「はい……今どきの新人さんは精神的に脆いのか、私が些細なことだと思うような注意でも翌日から出勤しなくなることもあったので……。そうすると上司から 『もっと優しく注意するように』 という注意があるのです。私の評価にもつながるということもあり怖くて……」
筆者 「自分に緊張感や不安感を持って接せられたら、Aさんはどう思いますか?」
Aさん 「そう言われると……自分に対して良い印象は持っていないと感じますし、そんな人の話は耳に入らないかも」
筆者 「そうですね。そして、 『休憩に入ることは悪いことではない』 ことと 『休憩に入るタイミングが課題』 と分けて考えましょう。なぜ新人さんはそのタイミングで休憩に入ろうとしたのか、聞きましたか?」
Aさん 「聞いていません。業務より休憩に入ることを重視している姿勢に疑問を持ってしまったので、なぜそのタイミングで休憩に入ったのか相手に聞こうとする考えがありませんでした。そうか、理由を聞く前に責めているように感じてしまったのでしょうか」
筆者 「相手の考えは相手にしか分かりません。また、こちらが相手を必要以上に責め立てることをしておらず、適切な指導として言葉を紡いだ結果として相手がどのような感情になるのかは、相手次第です。つまり、相手の感情を色々と想像(主にネガティブに)することは、相手のことを尊重していないこととイコールではないでしょうか。経験が浅いということは失敗を避けて通れないことと同意ですし、新人さんもそのことは理屈として理解されているのではないですか?根性論、ということではなく 『相手に伝わらないかもしれない』 というあきらめではなく、 『相手に伝えよう』 という姿勢で指導しませんか?その前提として、相手にどういう考えでその行動に至ったのか、確認してみてはいかがでしょうか」
Aさん 「そうですね。相手を傷つけないようにと思う態度が、相手を尊重していない態度になっていたとは、まさにその通りだと思いました。だって相手のことを 『ただ休憩したい子』 と思い込んでいたのですもの。相手に向き合うという意味を考えさせられました」
このケース、どのような感想を持ちましたか?新人さんへの指導に戸惑われる方から質問を受ける機会は多くありますが、相手のことを気遣っているつもりが、相手にとって大変失礼な態度になってしまっていることも少なくないようです。相手に向き合うことの意味について、Aさんと共にこのケースが考えるきっかけになれば幸いです。
【2025. 1. 15 Vol.608 医業情報ダイジェスト】
ある日、急患患者が来るという連絡がクリニックにあったその時、 「今のうちに休憩行ってきます!」 と新人さんはAさんに宣言して休憩に行ってしまいました。確かに休憩に入る時間が無いほど忙しかったのですが、急いで急患用の準備をする人員が足りないなかで休憩宣言をしてしまった新人さんは、その宣言通り休憩に入ったのでした。その結果、十分な準備が行えないまま急患対応は行われ、通常業務にも多大なる支障が出てしまいました。
新人さんの教育担当であるAさんは新人さんに声を掛けました。
Aさん 「 (優しいトーンで)お仕事お疲れ様。今日の休憩の入り方なんだけど、せめて準備をしてほしかったのだけど……」
すると、その休憩の入り方について具体的な指導をしようとした途端に新人さんは涙を目いっぱいに貯め、Aさんの目の前から走っていなくなってしまったのでした。
Aさん 「本当に困ってしまいました……私はどう声を掛けたらよかったのでしょうか? 『新人さんは悪くないよ』 という声掛けから入るべきだったのでしょうか、それとも 『よく頑張っているね』 という声掛けでしょうか……。でも悪くないことはないし……その出来事から私は新人さんに対して腫れ物に触るような接し方になってしまっています」
筆者 「実際の会話でどのような言動だったか分からないので今のご報告の範囲でAさんの対応内容を振り返ると、決してAさんに大きな非があるとは思えません。むしろ新人さんに対して 『傷つけてはいけない』 という緊張感や不安感があるように思います」
Aさん 「はい……今どきの新人さんは精神的に脆いのか、私が些細なことだと思うような注意でも翌日から出勤しなくなることもあったので……。そうすると上司から 『もっと優しく注意するように』 という注意があるのです。私の評価にもつながるということもあり怖くて……」
筆者 「自分に緊張感や不安感を持って接せられたら、Aさんはどう思いますか?」
Aさん 「そう言われると……自分に対して良い印象は持っていないと感じますし、そんな人の話は耳に入らないかも」
筆者 「そうですね。そして、 『休憩に入ることは悪いことではない』 ことと 『休憩に入るタイミングが課題』 と分けて考えましょう。なぜ新人さんはそのタイミングで休憩に入ろうとしたのか、聞きましたか?」
Aさん 「聞いていません。業務より休憩に入ることを重視している姿勢に疑問を持ってしまったので、なぜそのタイミングで休憩に入ったのか相手に聞こうとする考えがありませんでした。そうか、理由を聞く前に責めているように感じてしまったのでしょうか」
筆者 「相手の考えは相手にしか分かりません。また、こちらが相手を必要以上に責め立てることをしておらず、適切な指導として言葉を紡いだ結果として相手がどのような感情になるのかは、相手次第です。つまり、相手の感情を色々と想像(主にネガティブに)することは、相手のことを尊重していないこととイコールではないでしょうか。経験が浅いということは失敗を避けて通れないことと同意ですし、新人さんもそのことは理屈として理解されているのではないですか?根性論、ということではなく 『相手に伝わらないかもしれない』 というあきらめではなく、 『相手に伝えよう』 という姿勢で指導しませんか?その前提として、相手にどういう考えでその行動に至ったのか、確認してみてはいかがでしょうか」
Aさん 「そうですね。相手を傷つけないようにと思う態度が、相手を尊重していない態度になっていたとは、まさにその通りだと思いました。だって相手のことを 『ただ休憩したい子』 と思い込んでいたのですもの。相手に向き合うという意味を考えさせられました」
このケース、どのような感想を持ちましたか?新人さんへの指導に戸惑われる方から質問を受ける機会は多くありますが、相手のことを気遣っているつもりが、相手にとって大変失礼な態度になってしまっていることも少なくないようです。相手に向き合うことの意味について、Aさんと共にこのケースが考えるきっかけになれば幸いです。
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