病院・診療所
外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰと診療所の賃上げ対応の現状
データから読み解く!
株式会社メデュアクト 代表取締役 流石 学
昨今、急激な物価高騰が続いており、医療機関の経営に大きな影響を及ぼしている。令和6年改定により医業収益が増加しつつも、それ以上に人件費や光熱費、薬剤・材料費の増加が経営を圧迫している。しかし、医療機関は保険診療のもとでは価格転嫁もできず、診療報酬改定も2年に1度になるため、経済環境の変化に迅速に対応することは難しい。
こうした状況下においても、医療従事者の確保や定着を図るためには、給与の引き上げも重要な課題となる。近年では、新卒の初任給を30万円以上に引き上げる企業が現れるなど、一般企業における給与改善の動きが加速しており、医療業界はこの流れに追いつけていないのが現状だ。医療従事者の処遇改善を進めなければ、人材流出が進み、地域医療の継続が困難になる恐れがある。実際に、より良い労働条件の職場を求めて、医療業界だけでなく他業界に移るケースも多い。
令和6年の診療報酬改定では、職員の賃金改善を目的としたベースアップ評価料が新設された。これは医療機関が医療従事者への適切な賃上げを行った場合に加算される評価料であり、人材確保や医療従事者のモチベーション向上に寄与すると期待されている。
しかしながら、ベースアップ評価料の届出をしない医療機関の話を耳にする機会は少なくない。届出しない理由は大きく2つあり、1つは、現行のベースアップ評価料が将来廃止される可能性への懸念。もう1つは、施設基準の届出書類の作成方法がわかりづらいことだ。
こうした状況下においても、医療従事者の確保や定着を図るためには、給与の引き上げも重要な課題となる。近年では、新卒の初任給を30万円以上に引き上げる企業が現れるなど、一般企業における給与改善の動きが加速しており、医療業界はこの流れに追いつけていないのが現状だ。医療従事者の処遇改善を進めなければ、人材流出が進み、地域医療の継続が困難になる恐れがある。実際に、より良い労働条件の職場を求めて、医療業界だけでなく他業界に移るケースも多い。
令和6年の診療報酬改定では、職員の賃金改善を目的としたベースアップ評価料が新設された。これは医療機関が医療従事者への適切な賃上げを行った場合に加算される評価料であり、人材確保や医療従事者のモチベーション向上に寄与すると期待されている。
しかしながら、ベースアップ評価料の届出をしない医療機関の話を耳にする機会は少なくない。届出しない理由は大きく2つあり、1つは、現行のベースアップ評価料が将来廃止される可能性への懸念。もう1つは、施設基準の届出書類の作成方法がわかりづらいことだ。
■ 診療所の外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出状況は?
外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出状況はどうなっているだろうか。今回は都道府県ごとの診療所における外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出割合(令和6年12月時点)と看護師の平均年収の関係性を示す散布図を作成した。
まず届出割合の高い地域は、福井県、熊本県、宮崎県などが挙げられる。福井県は届出割合が唯一50%を超えている。逆に低いのが和歌山県と山梨県。この2県の届出割合は20%を下回っている。なお全国の届出割合は27%となっている。
看護師の平均年収が高い地域としては、大阪府、神奈川県、静岡県などが挙げられる。逆に宮崎県、熊本県、大分県など、九州地方は平均年収が低い傾向にある。しかし、これらの地域は看護師の平均年収が相対的に低いものの、ベースアップ評価料の届出割合は高いようだ。
47都道府県のうち、届出割合が30%を超えているのは22道県だった。看護師の平均年収の上位15地域では、そのうち6県が30%を超えていたが、下位15地域では12県が30%を超えていた。もともとの平均年収が低い地域は外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出に前向きで、平均年収の高い地域は控えめになっている傾向があるようだ。前者では職員の収入を増やしたいという経営者の心情が反映されているのかもしれない。
ちなみに病院では外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰ、入院ベースアップ評価料ともに85%以上が届出しており、診療所の届出割合とは大きな差が生じている。

図. 外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出割合(診療所)と看護師の平均年収の関係
まず届出割合の高い地域は、福井県、熊本県、宮崎県などが挙げられる。福井県は届出割合が唯一50%を超えている。逆に低いのが和歌山県と山梨県。この2県の届出割合は20%を下回っている。なお全国の届出割合は27%となっている。
看護師の平均年収が高い地域としては、大阪府、神奈川県、静岡県などが挙げられる。逆に宮崎県、熊本県、大分県など、九州地方は平均年収が低い傾向にある。しかし、これらの地域は看護師の平均年収が相対的に低いものの、ベースアップ評価料の届出割合は高いようだ。
47都道府県のうち、届出割合が30%を超えているのは22道県だった。看護師の平均年収の上位15地域では、そのうち6県が30%を超えていたが、下位15地域では12県が30%を超えていた。もともとの平均年収が低い地域は外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出に前向きで、平均年収の高い地域は控えめになっている傾向があるようだ。前者では職員の収入を増やしたいという経営者の心情が反映されているのかもしれない。
ちなみに病院では外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰ、入院ベースアップ評価料ともに85%以上が届出しており、診療所の届出割合とは大きな差が生じている。

図. 外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰの届出割合(診療所)と看護師の平均年収の関係
■ 職員満足度が上がれば、医療サービスの質が向上する
外来・在宅ベースアップ評価料Ⅰについて、インターナルマーケティングの視点で考えてみたい。インターナルマーケティングとは、組織が職員を 「内部顧客」 と捉え、組織の理念や価値を浸透させ、働きやすい環境を整えることで、顧客満足度の向上を目指す経営戦略の1つである。職員の満足度を高めること、働く意欲や職場への愛着、忠誠心を高めることにより、医療サービスの質が向上し、結果的に外部顧客である患者への価値提供が強化され、競争力向上に繋がるという考え方だ。
令和6年度改定でベースアップ評価料が新設されたことは、医療機関で働く者の多くが認識しているだろう。筆者も病院職員の方から 「私たちの給料が増えるんですよね?」 と何度となく質問を受けた。さらに昨今の物価高騰や一般企業の賃金引き上げのニュースが流れるなかで、経営者がベースアップ評価料を否定することは、インターナルマーケティングの視点から考えた場合どうだろうか。
将来ベースアップ評価料が廃止される懸念については、病院では就業規則を見直すなど、将来の不確実性を回避しながら届出しているところが多い。書類作成の煩雑さに関しては、事務作業の人手が限られる診療所では、これを理由に避けてしまう気持ちは理解できなくもない。厚生労働省は医療機関の届出負担を軽減するため、届出様式の簡素化を進めている。それでも分かりづらいという声は根強いが、ベースアップ評価料の届出をしていない医療機関は届出を行うことで得られるメリットを改めて考慮してみてもよいのではないか。
【2025. 3. 1 Vol.611 医業情報ダイジェスト】
令和6年度改定でベースアップ評価料が新設されたことは、医療機関で働く者の多くが認識しているだろう。筆者も病院職員の方から 「私たちの給料が増えるんですよね?」 と何度となく質問を受けた。さらに昨今の物価高騰や一般企業の賃金引き上げのニュースが流れるなかで、経営者がベースアップ評価料を否定することは、インターナルマーケティングの視点から考えた場合どうだろうか。
将来ベースアップ評価料が廃止される懸念については、病院では就業規則を見直すなど、将来の不確実性を回避しながら届出しているところが多い。書類作成の煩雑さに関しては、事務作業の人手が限られる診療所では、これを理由に避けてしまう気持ちは理解できなくもない。厚生労働省は医療機関の届出負担を軽減するため、届出様式の簡素化を進めている。それでも分かりづらいという声は根強いが、ベースアップ評価料の届出をしていない医療機関は届出を行うことで得られるメリットを改めて考慮してみてもよいのではないか。
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