組織・人材育成

評価者訓練と育成面接メモの作成

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
3月に入り、人事評価結果を部下にフィードバックするための面接の準備に取りかかっている管理職も多いと思います。しかし、評価者の中には、部下を評価することだけが目的になってしまい、AやBといった評点を付けることに躍起になり、部下の育成という視点が抜け落ちているのではないかと感じる人もいます。部下に点数を付けるだけの人事評価はあまり意味がありません。部下の成長を助け、意欲を引き出すためのフィードバックが必要です。
そこで、今回は、育成面接時に部下に伝えるべき内容を確認し、そのための研修方法について紹介します。

評価者訓練と育成面接メモの作成

評価者に、例えば、 「創意工夫力」 という評価要素にC評価を付けた理由を聞くと、 「上司や先輩に反対意見ばかり言うのでC評価にしました」 という答えが返ってきたとします。そして、他の評価要素にもC評価が多く付けられ、その理由も同じような答えだったとします。これは極端な例ですが、評価者研修をしていると、これに近い評価を行っていると思われる人が数名はいます。人は、他者を見る時に色めがねをかけて見ます。この人は反抗的だと思うと、そのことだけに捉われて、すべての評価を悪くしたりするのです。このような状態をハロー効果と言いますが、これでは人事評価をしている意味がありません。
人事評価は3つの選択によって行われます。一つは 「行動の選択」 です。どのような行動が評価の対象となるかの選択です。そして、その行動をどの評価要素で捉えるかの選択が 「要素の選択」 です。最後に、それをどの段階で評価するかが 「段階の選択」 です。A評価、B評価といった選択です。先述の例で言えば、 「何月何日、A看護師の○○のことに関する意見について、理由も言わずに反対をした」 という行動事実があれば、要素の選択は 「創意工夫力」 ではなく、どちらかと言えば、能力的には 「理解力」 で評価すべきでしょう。そして、人事評価の大事なポイントは、原則として、1つの行動は1つの評価要素に結び付けて評価することです。これは、ハロー効果を起こさないためのルールと言えます。
評価者研修では、架空の人物を主人公とした事例を作り、多くの職務行動の事実(評価事実)をそれぞれ各評価要素に結び付け、評価を付けてもらう訓練をします。そして、このような評価をすれば、ハロー効果は起こさず、主人公である看護師の 「ほめる点」 「注意する点」 は自ずと明確になります。そして、注意する点から、主人公の育成するポイントも見いだせるはずです。すなわち、ハロー効果を起こさず、きちんと3つの選択によって評価することで、相手にフィードバックすべき 「ほめる点」 「注意する点」 「育成点」 を容易に整理することができます。したがって、最近は、単に評価を付ける訓練で終わらせるのではなく、その評価結果を整理して、相手にフィードバックする内容を育成面接メモという形にまとめてもらい、その内容をロールプレイング的に発表してもらう所まで、訓練するようにしています。

育成面接メモの内容

育成面接メモの内容を図にしました。運用している人事評価の要素によって多少内容は変わりますが、人事評価の結果をもとに、図の2~4は導き出されるはずです。訓練では、5の育成プランまで書いてもらうことはしませんが、他の部分は、看護師の事例を使ったとしても、他の職種の人でも書くことは可能です。ただし、育成プランは、例えば、主人公が看護記録を書くのが苦手だった場合に、どのような計画を立てて取り組めばよいかまでは、他の職種の人では分かりません。したがって、この部分を外して、育成面接メモの項目を整理し、研修参加者に向けて発表してもらうという訓練をしています。
医療に携わる職員は、たとえ人事評価結果が悪かったとしても、結果が悪かった原因とその改善の方向性が理解できるようなフィードバックをしてもらえれば、この上司のもとで、自分は今後成長できそうだという成長予感を感じてもらうことができると考えます。伝え方も大事ですが、育成に向けた的確な情報こそ、フィードバックにおいて最も重要です。

図:育成面接メモの内容(ポイント)



【2025. 3. 1 Vol.611 医業情報ダイジェスト】