組織・人材育成

高年齢者に関する法改正と 定年延長、退職金制度の見直し

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
今年4月に、高年齢者雇用安定法と雇用保険法が改正されます。平成24年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置として、対象者を限定することが認められていました。高年齢者雇用安定法の改正は、この措置が今年の3月31日に終了するというものです。したがって、すべての事業主に、希望者全員に対する65歳までの雇用機会の確保が義務化されます。このことを65歳までの定年引上げと勘違いされ、弊社に定年延長と退職金制度見直しのご相談をされた病院もありましたが、今回は、そこまでは求めておらず、継続雇用制度で問題ありません。おそらくこの経過措置を利用されている病院はほとんどないと推測しますので、この法改正の影響を受けるところは少ないと思われます。それよりも、雇用保険法の改正により、高年齢雇用継続給付の支給率が、賃金の最大15%から10%に縮小されることのほうが、影響を受ける医療従事者が多いと思われます。
病院の機能にもよりますが、今回の法改正を機に、継続雇用ではなく65歳定年延長に踏み切ることを推奨しています。そして、その際は、退職金制度を見直す絶好の機会です。そこで今回は、定年延長と退職金制度の見直しについて考えます。

定年延長の公正性と退職金制度見直しの好機

仕事柄、ハローワークの求人票を見ることが多いのですが、最近は、正職員の応募者の年齢が64歳までという病院を結構目にします。急性期病院では、60歳を超えた医療従事者の活用に頭を悩ませているところもあると聞きますが、それ以外の病院では、新卒採用はほとんど諦めており、60歳以上の職員が現場で生き生きと活躍されています。最近、相談を受けた精神科病院でも、新卒採用はほとんどできず、また、中堅以上の職員も65歳定年制のところへ移っていくため、65歳まで定年延長とし、賃金も下げないことにする方向で検討をしています。仕事の内容も変わらず、組織への貢献度が同じであるにも関わらず、年齢によって定年退職とし、賃金を大幅に下げるのは公正な処遇とは言い難いように思います(仕事が変わるなら下げるべきです)。また、新卒採用を諦めている病院では、今後高年齢者の力に頼らざるを得ないわけですから、他の病院からの中途採用に力を入れるとすれば、65歳までの定年延長は効果的だと考えます。
60歳定年後の再雇用で、賃金を60%位まで下げられ、高年齢雇用継続給付金で15%補填されていた場合、65歳までの収入の補填として、退職金は大きな意味がありました。しかし、65歳まで定年延長にして賃金をほとんど下げないのであれば、老後保障としての退職金の役割は小さくなるため、退職金制度を見直す絶好の機会だと考えます。
そして、公正な処遇という意味で考えれば、退職時にたまたま高い賃金を受け取っていたら退職金額も高くなるような基本給連動型の退職金制度から、勤務していた期間を通しての組織への貢献度を反映させるポイント制退職金制度へと見直すべきです。これは、今後、人材を確保するために賃金を上げていかざるを得ない時に、退職金に係る人件費まで増加していくのを抑えることにもなります。
さらに、勤続3年以上の人に支給している退職金を5年以上に見直すなど、今後、制度の縮小はやむを得ません。

ポイント制退職金制度の簡便な設計方法

ポイント制退職金のポイントは、等級ポイントを主体に設計します。退職金の主な役割が、老後保障から在職中の功労に対する報酬(功労報奨)へと変わっていくと考えれば、上位等級に上がるにつれてポイントを高くすることにより、上位等級の役割に就こうという意欲を引き出すとともに、上位等級の難しい役割に就いて組織に貢献した人に報いることにもなるからです。また、退職金には勤続奨励という組織への定着を期待する部分もあることから、勤続ポイントも必要です。退職金のポイントの例を図にしました。筆者が所属する医療経営情報研究所が以前調査したところ、病院職員の勤続40年のモデル退職金(病院都合)は職種によって多少異なりますが、1,400万円程度でした。図の例では、1等級から5等級(係長クラス)までモデル年数で上がったとして1,200万円程度になるように設計しています。モデル退職金額(一定の等級までモデル年数で昇格していった時の金額)を初めに設定し、その金額になるように、等級ポイントと勤続ポイントを決めていけば、簡単にポイント設計はできますので、一度試してみるとよいでしょう。その際、現行よりも低くモデル退職金を設定する必要はあります。




【2025. 3. 15 Vol.612 医業情報ダイジェスト】