病院・診療所

看護補助者の労働条件は悪くない?

データから読み解く!
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
近年は看護補助者が採用困難な職種の1つになっている。
看護補助者の配置を増やすことで、看護師の業務負荷の軽減だけでなく、診療報酬上も上位の施設基準を満たせることから、経営上のメリットは大きい。現実的な問題として看護補助者の採用に困っている医療機関は多いのではないだろうか。自力での採用が難しく人材派遣会社に頼るものの、人材派遣会社も看護補助者の確保がままならない状態になっているという話を耳にする機会も多い。
職業安定業務統計より有効求人倍率を確認すると、看護師をはじめとする 「保健師、助産師、看護師」 の有効求人倍率が2倍前後で推移しているのに対して、看護補助者をはじめとする 「保健医療サービス職業従事 者」は3倍を超えている。この傾向はここ数年続いている。有効求人倍率は求職者1名あたりの求人の割合を示す指標のこと。1倍を超えていると求職者数よりも求人数のほうが多い状態となる。倍率が高いほど売り手市場(求職者が有利な状態)であり、病院にとっては採用が困難な状態になる。
以前から有効求人倍率が低かったわけではないが、コロナ禍以降はさらに上がっている。コロナ禍では 「感染を恐れて病院という職場を避けるようになった」 という労働環境の問題を病院の担当者からよく聞き、アフター・コロナの最近では 「他業界の賃金上昇に伴い、看護補助者の給与が見劣りしてしまう」 という労働条件の問題が挙げられるようになった。

■ 看護補助者の労働条件は本当に見劣りするのか?

賃金構造基本統計調査より、看護補助者(看護助手)と他のサービス業の職種と比較してみよう。
図で示した職種名は、同統計調査で用いる職業分類のためわかりづらいかもしれないが、看護助手は看護補助者、飲食物給仕従事者は飲食店等のホール・フロア係等、娯楽場等接客員はレジャー・娯楽施設の従業員等、身の回り世話従事者は宿泊業・飲食サービス業の客室係、接客係等と読み替えてほしい。
まず図1は、所定内給与と所定内実労働時間数より算出した令和2年以降の時間単価の推移を示している。所定内給与だけを見ると、看護補助者の時間単価は他の3職種と比較して低いことがわかる。
しかし、賞与や時間外貸金を含めると様相は一転する(図2)。娯楽場等接客員には叶わないものの、看護助手の時間単価は右肩上がりになっており、飲食店や宿泊業に携わる職種を上回っている。医療機関の場合、年収に占める賞与の割合が高くなるため、このような逆転現象が生じる。
しかし、求人票では賞与等が具体的な金額で示されないため、単純に求人票を比較したときに他のサービス業に比べて見劣りしてしまっている可能性は否めない。
また同統計調査の結果では、時間外業務時間は看護助手が他の3職種と比べて最も少ない。看護助手の労働条件は決して他のサービス業と比較して見劣りするものではなく、むしろ優位性さえあるのではないだろうか。

図1.所定内給与に基づく時間単価


図2.賞与等を含む時間単価


■求職者目線の採用活動が必要

先日、社会保険労務士と看護補助者の採用に関する議論をする機会があった。その際に 「看護補助者という仕事の存在を世間が知らないのではないか」 という意見があった。さらに、これまで医療業界で働く機会のなかった方にとって 「病院で働く=資格が必要」 という認識を持っているケースが多く、求職者が 「自分には関係ない」 と無意識に判断している可能性を指摘された。この指摘にはいつの間にか筆者自身も視野が狭くなっていることに気づかされた。
看護助手、看護補助者と言われたとき、医療業界に携わっている人は当然のように資格が不要の職種と認識するが、業界外の人に資格の要・不要の判断は難しいかもしれない。ハローワークで求人票を探すと、看護助手の求人は職種選択で 「医療、看護、保健」 に含まれる。求人票には資格不問、学歴不問とは書かれているものの、求職者が看護補助者という職種を知らなければ、その求人票まで自ら辿りつける機会は限られてしまう。エージェントに頼らず自力の採用を目指すのであれば、まずは看護補助者という仕事の存在を認識、理解してもらうところから始めたい。


【2025. 4. 1 Vol.613 医業情報ダイジェスト】