組織・人材育成
一生懸命伝えたら、伝わる?
指導すればするほど伝わらない院長先生のお話
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
「最近の若い人にどう声を掛けたら良いか分からない」 というお悩みをいただく場面が多くあります。良かれと思ってかけた言葉が全く異なった意図を持って伝わってしまわないように気を付けた結果、コミュニケーションが限定的になり、より若手スタッフとの距離が開いてしまった……そう悩むケースもあるようです。今回はそんな 「若手スタッフに対する指導方法」 について悩むリーダーのお話を紹介いたします。
ケース:
関西にある歯科医院のお話です。このクリニックの院長先生は2人(共に20代後半)の新人歯科衛生士さんの育成に悩んでいました。
院長先生 「2人とも一生懸命に仕事に向き合ってくれますが、まだ若く精神的に繊細なので、相手を否定するような言葉は使わずに誉めて伸ばすことに努めてきました。間違った理解をしていることが想定される場合には、院長である自分ではなく、先輩の歯科衛生士スタッフからやんわり伝えてもらっています。自分が考えていたよりも成長スピードは遅いのですが、業務としてお願いできることは増えてきています。やっと継続して雇用できる可能性が高いと思える新人スタッフに出会えました……」
この院長先生は新人スタッフが入職後3か月を持たずに辞めてしまうことが続いため、自らの言動に気を付けていました。新人スタッフに対して 「厳しい言葉を使い過ぎていたかもしれない」 と反省した院長先生は、特に 「ダメだ」 「できていない」 といった否定的な言葉を浴びせてしまうことのないように努めていたと言います。新人スタッフがやっと定着しそうである状況に安心しつつも、心配なことがあると院長先生は話します。
院長先生 「歯科衛生士として歯科医師の補助業務をしてもらっていますが、その際に呼吸が合わないことが多々あるのです。例えば、器具を手渡しする際に非常に受け取りにくいのです。確かに 『モノを渡す』 という業務はできているのかもしれませんが……普通、はさみを手渡しする時に刃のある方ではなく持ち手を相手に向けて渡しますよね?一つひとつの動作は些細なものですが、その些細なものが積み重なって結果的に診療時間に影響を与えてしまうため、どうしたら新人スタッフたちに分かってもらえるか考えたのです」
筆者 「何か対策を取られたのですか?」
院長先生 「勉強会で診療のロールプレイングを行ったのです。そこで医師がどんなことを考えて診療を行っているのか、どういう補助をしてもらえると助かるのか伝えました。勉強会自体は行って良かったと思っています。新人スタッフたちは 『よく理解できた』 と言っていました。しかし、勉強会を行った当日は少し変化したかなと思ったのですが翌日以降は……目に見えて変わったかというと、そうではないのです」
筆者 「そうなのですね。2つお伝えしたいことがあります。1点目は 『伝えたこと=伝わったこと』 という式は成り立たないこと、2点目は 『分かったこと=行動が変わること』 という式も成り立たないことです。特に2点目は信じがたいかも知れません。
人は感情が動くことで行動が変わります。例えば、困っていることがあれば、それをどうにかしようとする気持ちが動くので改善行動に繋がります。逆に、健康な食生活が大切なことは多くの人が理解していると思いますが、理解していても不健康な食生活を行うことはあるのです。つまり、新人スタッフたちにとって行動を変えることが良いことであるという意味付けがあると感情を動かすことができるため、行動変容に繋がりやすくなります。新人スタッフたちは今回の勉強会をどう受け止めているのでしょうか?新人スタッフたちにとっての意味付けは彼らの中で生まれるものですので、残念ながら院長先生がいくら必要性を訴えても行動が変わるとは限らないのです」
院長先生 「仕事なのだから、院長である私が『こうしてほしい』 と伝えたことは問答無用でやるべき……こんな風に思っていた気がします。しかし 『院長が言ったから変える』 という仕事の仕方は私の望んでいることではありません。患者さんのために、一緒に働く仲間のために、スタッフが自ら考えて行動できる組織にしていきたいと思っています。スタッフがどう考えているのか、どう理解しているのかを聞くことよりも院長である自分の考えを押し付けることを優先する意識が強いことを反省しました。スタッフ一人ひとりに考える力を身に着けてほしいと思っているのであれば、仕事の中でもスタッフの考えを聞く意識をもたなければなりませんね」
この後、院長先生は新人スタッフたちと勉強会の意図と補助を行うときの考えについて意見交換する時間を取ったのでした。自分の考えを表出することに不慣れな新人スタッフたちは最初言葉がなかなか出なかったようですが、時間が経つにつれ少しずつ発言が見られるようになったそうです。
このケース、どのような感想を持ちましたか?このように些細なことの積み重ねで業務に支障が出ることはよくある話だと思います。繊細な新人スタッフに対して 「注意をする」 ことを躊躇する場面は多くみられますが、このケースのようにお互いにより良い行動ができるよう、自分たちの行動を振り返り、話し合う機会を作ってはいかがでしょうか?このケースがスタッフ全員にとってのより良い姿を実現するためのコミュニケーション方法について考えるきっかけとなれば幸いです。
【2024. 10. 1 Vol.601 医業情報ダイジェスト】
院長先生 「2人とも一生懸命に仕事に向き合ってくれますが、まだ若く精神的に繊細なので、相手を否定するような言葉は使わずに誉めて伸ばすことに努めてきました。間違った理解をしていることが想定される場合には、院長である自分ではなく、先輩の歯科衛生士スタッフからやんわり伝えてもらっています。自分が考えていたよりも成長スピードは遅いのですが、業務としてお願いできることは増えてきています。やっと継続して雇用できる可能性が高いと思える新人スタッフに出会えました……」
この院長先生は新人スタッフが入職後3か月を持たずに辞めてしまうことが続いため、自らの言動に気を付けていました。新人スタッフに対して 「厳しい言葉を使い過ぎていたかもしれない」 と反省した院長先生は、特に 「ダメだ」 「できていない」 といった否定的な言葉を浴びせてしまうことのないように努めていたと言います。新人スタッフがやっと定着しそうである状況に安心しつつも、心配なことがあると院長先生は話します。
院長先生 「歯科衛生士として歯科医師の補助業務をしてもらっていますが、その際に呼吸が合わないことが多々あるのです。例えば、器具を手渡しする際に非常に受け取りにくいのです。確かに 『モノを渡す』 という業務はできているのかもしれませんが……普通、はさみを手渡しする時に刃のある方ではなく持ち手を相手に向けて渡しますよね?一つひとつの動作は些細なものですが、その些細なものが積み重なって結果的に診療時間に影響を与えてしまうため、どうしたら新人スタッフたちに分かってもらえるか考えたのです」
筆者 「何か対策を取られたのですか?」
院長先生 「勉強会で診療のロールプレイングを行ったのです。そこで医師がどんなことを考えて診療を行っているのか、どういう補助をしてもらえると助かるのか伝えました。勉強会自体は行って良かったと思っています。新人スタッフたちは 『よく理解できた』 と言っていました。しかし、勉強会を行った当日は少し変化したかなと思ったのですが翌日以降は……目に見えて変わったかというと、そうではないのです」
筆者 「そうなのですね。2つお伝えしたいことがあります。1点目は 『伝えたこと=伝わったこと』 という式は成り立たないこと、2点目は 『分かったこと=行動が変わること』 という式も成り立たないことです。特に2点目は信じがたいかも知れません。
人は感情が動くことで行動が変わります。例えば、困っていることがあれば、それをどうにかしようとする気持ちが動くので改善行動に繋がります。逆に、健康な食生活が大切なことは多くの人が理解していると思いますが、理解していても不健康な食生活を行うことはあるのです。つまり、新人スタッフたちにとって行動を変えることが良いことであるという意味付けがあると感情を動かすことができるため、行動変容に繋がりやすくなります。新人スタッフたちは今回の勉強会をどう受け止めているのでしょうか?新人スタッフたちにとっての意味付けは彼らの中で生まれるものですので、残念ながら院長先生がいくら必要性を訴えても行動が変わるとは限らないのです」
院長先生 「仕事なのだから、院長である私が『こうしてほしい』 と伝えたことは問答無用でやるべき……こんな風に思っていた気がします。しかし 『院長が言ったから変える』 という仕事の仕方は私の望んでいることではありません。患者さんのために、一緒に働く仲間のために、スタッフが自ら考えて行動できる組織にしていきたいと思っています。スタッフがどう考えているのか、どう理解しているのかを聞くことよりも院長である自分の考えを押し付けることを優先する意識が強いことを反省しました。スタッフ一人ひとりに考える力を身に着けてほしいと思っているのであれば、仕事の中でもスタッフの考えを聞く意識をもたなければなりませんね」
この後、院長先生は新人スタッフたちと勉強会の意図と補助を行うときの考えについて意見交換する時間を取ったのでした。自分の考えを表出することに不慣れな新人スタッフたちは最初言葉がなかなか出なかったようですが、時間が経つにつれ少しずつ発言が見られるようになったそうです。
このケース、どのような感想を持ちましたか?このように些細なことの積み重ねで業務に支障が出ることはよくある話だと思います。繊細な新人スタッフに対して 「注意をする」 ことを躊躇する場面は多くみられますが、このケースのようにお互いにより良い行動ができるよう、自分たちの行動を振り返り、話し合う機会を作ってはいかがでしょうか?このケースがスタッフ全員にとってのより良い姿を実現するためのコミュニケーション方法について考えるきっかけとなれば幸いです。
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