診療報酬

200床未満病院の戦略は何をやらないかを決めること

大病院と中小病院の分水嶺は許可病床200床以上か未満か
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 大病院と中小病院の分水嶺は許可病床200床以上か未満か

2021年医療施設(動態)調査・病院報告の概況によると全国の病院数は8,205 施設で前年に比べ33施設減少している。施設の種類別にみると、「精神科病院」は1,053 施設で前年に比べ6施設減少、「一般病院」は 7,152施設で27 施設減少している。一般病院のうち「療養病床を有する病院」は3,515施設(病院総数の42.8%)で、前年に比べ39施設減少している。日本の病院の7割は200床未満の中小病院であり、減少しているのもほとんどがそれらの病院である。

診療報酬においても病床の分水嶺は「200床以上か、未満か」にあり、200床を境に、算定できる点数が異なり、当然のごとく経営戦略も大きく変わってくる。特に地域包括ケア病棟は200床未満の中小病院に有利な算定点数設定となっている。最も点数の高い地域包括ケア病棟入院料1の届出は、許可病床200床未満病院に限定されている。2022年度改定で厳格化された自院の一般病棟からの院内転棟患者割合6割以上の15%減算の対象は200床以上の病院の地ケア2・4に限定された。

在宅関連でも在宅療養支援病院の届出ができるのは200床未満であるし、在宅時医学総合管理料、外来の機能強化加算を算定できるのも同様である。弊社クライアント病院において2022年4月から、かかりつけ医機能を強化するため220床を199床にダウンサイジングしたところ、年間1億円弱の真水の増収(純益増)となった。もともと稼働は最大でも190床であり、200床を超えることはなかった。

■ 急性期機能のみの中小病院で〝病院の一本足〟運営が厳しい理由

病院として、かかりつけ医機能を強化したいならダウンサイジングを勧めるが、200床強で救急搬送や手術が多くて病床稼働率が高い病院であればその必要はない。全国病院データをみると、やはり199床の病院が多くなっている。これからの病床運営については病院のビジョンや方針、競合病院の動向をもとに検討することが必要になる。中小病院がある二次医療圏には必ず地域のトップランナーの急性期中核病院があり、そことの有機的な連携が重要になってくる。また、病院単体だけでなく介護施設や通所サービスなど介護系サービスを広範囲に展開していると経営的には安定する。診療報酬改定で医療が減収となっても、介護分野でなんとかカバーするといった法人全体の医療・介護複合経営の強みが出てくる。

急性期機能のみの中小病院で〝病院の一本足〟運営が厳しい理由は3つある。第一は財政が脆弱なことであり、急性期患者は季節変動や病院側の受け入れ体制の変化によって収入は激変する。とくに中小病院はスター医師が1人辞めると大幅減収になることが多い。

第二は人材確保であり、患者に限らず医療職もキャリアデザインを考えると大病院志向が強くなる。第三は教育体制である。病院は経営体であるが、同時に教育研修機関でもある。新卒で入職した職員には0JT(On the Job Training:院内教育)で育成していくが、中小病院では現場が忙しく、教育体制も充実していないところが多い。ただし、介護系施設や介護事業所を展開するところでは、看護職員は訪問看護や介護系看護などを幅広く学べる。さらに病院負担で認定看護師、特定看護師などが取得できればリクルートにあたっての強みになる。大規模な高度急性期病院では、これから需要が拡大する訪問系看護教育は難しい。

■ 大病院の戦略は多くのことをやらないといけない

199床の病床機能として地方に多いパターンは、4つの病棟のうち1病棟を「急性期一般入院料1(7対1看護)」とし、残りは回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、医療療養病棟などとするモザイク構成のケアミックス型である。中小病院で199床を全床「入院料1」とするのは、1日入院単価として6万円以上が目安になる。そのためには24時間救急受入体制が充実していて、さらに循環器や脳外科で地域NO1といった特定の尖った診療科が最低2から3つ以上ないと199床での急性期1本足打法は難しい。100床未満ならばひとつの尖った診療科で良いだろう。
ハートセンターや甲状腺、眼科、耳鼻科、産婦人科等の診療単科専門病院がこのタイプである。

病院経営にあたって中小病院で多くの診療科を行えばたくさん患者は来ると思いがちだが、たしかに外来患者は増加するだろう。ただし、病院経営にとってもっとも重要な入院患者は1人医長や2人医師では24時間診療体制が取れずにさほど増加しない。患者にとっては、診療科の違う複数の診療所を受診するよりも、自己負担が安いために外来受診に都合が良い病院になってしまう。
つまり、「中小病院の戦略は何をやらないかを決めること」であり、「大病院の戦略は多くのことをやらないといけないが、その中で強みは何かを明確にすること」になる。


【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】