診療報酬

全世代型社会保障構築会議の報告書を読む

「能力に応じて、全世代が支えあう」という報告書
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 「能力に応じて、全世代が支えあう」という報告書

昨年12月16日に全世代型社会保障構築会議は「能力に応じて、全世代が支えあう」という基本的な考え方をベースにした報告書をまとめた。報告書では、今はまさに「少子高齢化・人口減少時代」に対処するために舵を切っていくべき重要な時期にあり、それは「歴史的転換期」としている。「目指すべき社会の将来方向」として、「少子化・人口減少」の流れを変える、これからも続く「超高齢社会」に備える、「地域の支え合い」を強める――の3つを打ち出した。

その上で、5つの基本理念として、①「将来世代」の安心を保障する、②能力に応じて、全世代が支え合う、③個人の幸福とともに、社会全体を幸福にする、④制度を支える人材やサービス提供体制を重視する、⑤社会保障のDX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的に取り組む――を掲示。「各分野における改革の方向性」として、具体的に(1)こども・子育て支援の充実、(2)働き方に中立的な社会保障制度等の構築、(3)医療・介護制度の改革、(4)「地域共生社会」の実現――の4つを掲げて、基本的方向、取り組むべき課題、今後の改革の工程について整理した。

■ 出産育児一時金50万円への引き上げで危惧されること

わが国の世界に類を見ない少子高齢時代の進行をとめるための喫緊の課題は(1)こども・子育て施策であるが、現在の状況になることははるか以前から分かっていた。先送りの結果である。こどもには選挙権はなく、若い子育て世代も高齢者と比較すると投票率は低い。これまでの政府・与党の政策は投票率が高い高齢者中心に社会保障費をコストシフティングしてきたことは否めない。
今回は「子育て費用を社会全体で分かち合い、安心して子育てができる環境を整備することこそ何よりも求められている」と明記したが、その安定的な財源確保については今後の検討課題となり、具体的な記載はない。
出産育児一時金については従来の4 2万円を本年4月から50万円へ引き上げることを明記した。その費用の一部は後期高齢者医療制度が負担する仕組みが導入される。一時金50万円への引き上げはすでに報道されているように医療機関側の便乗値上げが危惧されている。そのため出産費用の見える化およびその効果検証を実施するとした。医療機関における出産費用について具体的にどんな項目を見える化するのか、その詳細はこれから検討されるが、出産費用や無痛分娩の取り扱いの有無、平均入院日数、合計負担額などを厚労省のホームページで公表される予定だ。

筆者の意見としては第3子以降には100万円以上の一時金、さらに毎月の児童手当も安心して子育てができる金額まで大幅増額すべきだと思う。さらに奨学金への公費支援も考えないといけない。全国的に病院薬剤師不足という声を聞くが、1,000万円超の奨学金を返済する薬学生もおり、必然的に賃金水準が高い調剤薬局を就職先に選んでしまうからだ。

■ かかりつけ医の認定制や登録制は見送りへ

選挙への投票率が高い後期高齢者制度の保険料負担の見直しも大きな課題だ。2009年の自民党から民主党(当時)への政権交代も「後期高齢者医療制度創設」と「消えた年金」が大きな理由となった。今回は高齢者負担率の見直しと応能負担強化のため賦課限度額と所得割率を引き上げて高齢者には応分の負担を求める予定である。

かかりつけ医機能の制度化は現在、社会保障審議会医療保険部会においても、かかりつけ医を医療法に明記して、現在の「医療機能情報提供制度」を拡充、さらに「かかりつけ医機能報告制度」を創設という議論が行われている。すでに日本医師会、日本病院会、健康保険組合連合会、財務省のステークホルダー(利害関係者)が、それぞれの立場から「かかりつけ医」制度について考え方を公表している。診療側の日医、日病ともに「かかりつけ医機能」は医療機関が自主的に届け出ることが望ましいという考えである。ともに現在の医療法施行規則に基づいた「医療機能情報制度」(医療情報ネット)の見直しを求めている。

一方、支払側の健保連はかかりつけ医を認定制にした上で、国民・患者が任意でかかりつけ医1人を登録する仕組みを提案している。かかりつけ医・医療機関に対する診療報酬や保健事業への支払いは今後の検討課題とした。財務省も同様にかかりつけ医の制度化を求めている。厚労省は制度案を示しているが、そこには認定制や登録制の記載はなく、導入は見送られることになった。現行の「医療機能情報提供制度」を拡充するのが基本的な方向である。これからも、かかりつけ医をめぐる議論はエンドレスであろう。


【2023. 2. 1 Vol.561 医業情報ダイジェスト】