診療報酬

人工腎臓点数の朝令暮改とジレンマ

人工透析点数は「ウチだけは安く」と購入するから改定の度に下がる
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 人工透析点数は「ウチだけは安く」と購入するから改定の度に下がる

改定の度に算定要件が猫の眼のごとくクルクルと変わるのは「重症度、医療・看護必要度」である。2022年度改定ではB項目から心電図モニターが外されて、高齢者の内科入院が多く、入院単価が4万円台の病院への影響は大きかった。言い換えれば、そこがターゲットであった。このように改定の度に点数や算定要件が必ず変わる項目の大先輩格にあたるのが、人工腎臓(人工透析)である。1か月の透析治療の医療費は、患者1人につき外来血液透析では約40万円、腹膜透析(CAPD)では30~50万円程度とされている。このように透析治療の医療費は高額ではあるが、患者さんの経済的な負担が軽減されるように医療費の公的助成制度が確立している。

かつては病院の開設や経営再建にあたって、人工透析が「打ち出の小槌」のように扱われた時代もあった。しかし、人工腎臓を行えば利益がどんどん出る時代は遠い昔になった。改定の度に薬価や検査の引き下げが反映され、慢性期維持透析関連の点数は引き下げられているからだ。ダイアライザー等の特定保険医療材料も市場実勢価格が下がることを反映させて、一部を除いて改定のたびに引き下げられてきた。

本当は医療機関が逆カルテル(協定)を結んで、薬価や特定保険医療材料を値引きしないで定価購入していれば改定の度に点数が下がることはない。しかし、「ウチだけは安く」と購入してしまうため、それが市場実勢格を引き下げしまう。相手を出し抜くために結果が悪くなるという古典的な行動経済学「囚人のジレンマ」の世界に陥ってしまっている。

■ HIF-PHD阻害薬の院外処方点数は2年で廃止

前々回2020年度改定における人工腎臓は、「腎性貧⾎」の治療薬であるエリスロポエチン製剤等に薬価が低いバイオ後続品が登場していることなどを踏まえて、各区分について引き下げが実施された。同時に経口(内服)の「腎性貧⾎」治療薬(HIF-PHD阻害薬)の登場を踏まえ、これを院外処方した場合の点数を設定した。このため人工腎臓の点数は6区分となり複雑化した。
それが前回2022年度改定では、HIF-PHD阻害薬は「原則院内処方」とされ、点数は2020年度改定前の3区分に戻り、それぞれ39点ずつ引き下げられた。このように2年間で元に戻る点数を筆者は「朝令暮改点数」と呼んでいる。2022年4月の改定で創設されたオンライン資格確認を評価した「電子的保健医療情報活用加算」は2年後の政府による紙保険証廃止政策にともなって、2022年10月、2023年4月と半年ごとに名称、算定要件、点数が変更になっている。他にも2018年度改定で創設された「妊婦加算」は、患者負担増が問題となり、次の改定を待たずに途中で廃止された。

■ 透析時運動指導等加算などの研修要件がある点数の問題

日本透析医学会の統計調査によると、わが国の透析患者数は年々増加し、2020年末の施設調査結果による透析患者数は34万7671人、人口100万人あたりの患者数は2754人であった。患者調査結果による平均年齢は69.4歳、最も多い原疾患は糖尿病性腎症(39.5%)、2位は慢性糸球体腎炎(25.3%)、3位は腎硬化症(12.1%)であった。
2022年度改定では、人工腎臓の導入期加算1と2の施設基準に「腎代替療法に係る研修修了者の配置」が追加され、加算1は努力義務で200点、加算2は義務で400点となった。さらに加算3(800点)も新設された。加算3の施設基準では、「加算1又は2の算定施設と連携して、腎代替療法に係る研修を実施し、必要に応じて、当該連携施設に対して移植医療等に係る情報提供を行っていること」と透析医療機関同士の連携を促している。

加算3の新設や在宅自己腹膜灌流指導管理料の「遠隔モニタリング加算」(115点、月1回)の新設、「在宅血液透析指導管理料」の引き上げ(8,0 0 0点→10,0 0 0点)には、人工腎臓(血液透析)から腎移植、腹膜透析、在宅血液透析へゆるやかにシフトしていきたいという厚労省の考えがある。さらに2022年度改定では、人工腎臓のリハビリの評価として「透析時運動指導等加算」(75 点、90 日限度)が新設された。研修要件は「透析患者の運動指導に係る研修を受講した医師、理学療法士、作業療法士又は医師に具体的指示を受けた当該研修を受講した看護師」とされた。研修については事務連絡(その8)(22年5月13日)において、「現時点では、日本腎臓リハビリテーション学会が開催する『腎臓リハビリテーションに関する研修』」とされた。4月改定から約1か月半後に具体的な研修名が明らかになったことは、遅いと言わざるを得ない。さらに事務連絡の時点では研修会の日程も未定だったことが現場の混乱を招いた。医療の質を担保するために研修要件がある点数は増えるのは結構なことだが、肝心の研修自体のインフラが十分でないことが散見される。


【2023. 4. 1 Vol.565 医業情報ダイジェスト】