組織・人材育成

兼務による人材活用と兼務者の人事評価の留意点

若手人材の育成と組織への定着促進
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、支援している法人の人事の方から、仕事を兼務している職員の人事評価について質問をいただきました。詳細は書けませんが、要約すれば、2人の上司がいるので、必ず2人に評価をしてもらわなければいけないのかといった質問です。
兼務という働き方は大昔からありますが、最近は国が副業・兼業を勧めているような時代ですから、兼務についても、企業では、働き方改革の一環として積極的に取り入れているところもあるようです。そこで今回は、兼務による人材活用と兼務者の人事評価の留意点について考えます。

兼務による人材活用と意欲の向上

兼務については、数年前にJR東日本が、社員が業務を兼務する働き方改革を広げているといった記事を見ました。その記事では、午前は車掌としての業務を行い、午後はオフィスに移って企画業務を行っていると紹介していました。
筆者が支援している法人では、事務職を希望している職員であっても、介護職を必ず経験するというジョブローテーションを行っているところがあります。介護業務を中心とした法人で、法人の理念等に従って行っていることであり、採用などで支障は出ていないようですから、それでもよいのでしょうが、兼務という働き方は、ジョブローテーションに変わる一つの方策ではないかと考えます。すなわち、午前中は介護の仕事をして、午後は人事部で研修企画の仕事をするというようにすれば、企画業務を希望して入職した職員にとっては、初めに介護の仕事だけをやらされるよりも、意欲が出るものと思われます。しかも、現状、介護職の雇用が厳しい中、事務職希望者を一旦介護部門に配属してしまうと、事務への異動が困難という状況もあるようです。兼務で介護職を経験することで、法人の理念に沿うとともに、いつまでも事務に異動できなくて退職されるよりも、労働力の維持と職員の意欲向上の面で、効果的ではないかと考えます。
支援している某病院では、感染管理の専門職と病棟の看護師を兼務している職員がコロナ禍で活躍し、院内の感染拡大を抑えることに尽力して、病院の運営と経営に大きく貢献しました。中小病院では、看護師が不足している中、感染管理の業務に1人の人員を専属で置くことは難しいでしょうが、週に何日は病棟勤務、何日は病院全体の感染管理を担当するという兼務をしてもらうことは可能だと考えます。この例では、感染管理の専門職になりたいという本人の希望を兼務という形で生かせたことで、意欲を高め認定資格を取得するなど専門家の育成にもつながり、さらに、病棟の人員確保もある程度できたことになります。

職員が、将来のキャリアを自ら考える時代になりました。組織の人員配置の関係で、職員が希望する部署に配属することは不可能と言えなくもありません。しかし、兼務という形ならば、本人がやってみたいことを少しでも経験してもらうことは可能なのではないでしょうか。
これからの働き方として、100%別の部署に異動して他の業務を経験してもらうよりも、兼務という形で、少しでも本人の希望に沿った配属ができれば、若い人材の意欲を高め、育成にもつながり、組織への定着も促進できるのではないかと考えます。

兼務者の人事評価の留意点

兼務者の評価についてですが、基本的には、主たる業務と評価者を明確にしたほうが、本人の居場所がはっきりするので、そのようにすべきだと考えます。すなわち、業務を兼務している職員の評価者は、主たる業務のライン上の上司とします。主たる業務が人事であれば、一次評価者を人事課長、二次評価者を人事部長とします。ただし、兼務職員の評価者は、従たる業務の上司に職務遂行状況等を確認の上、評価を行うことが必要です。
先述の専門職は、感染管理については、コロナ禍で緊急対応業務でしたので、院長直轄で動き、院長が評価を行っていましたから、非常に納得感が高く、意欲を高めて活躍していました。目標管理を中心に置いた人事評価制度なので、本人が力を入れている部分を評価することで、よい結果につながっていたと言えます。
しかし、ここで留意する点は、評価を受ける職員が納得することは当然として、さらに、周囲の職員も納得できているか否かということです。周りの人から見れば、好きなことをやって、好きな部分だけ評価をされていて羨ましいということにならないとも限りません。病棟業務もしっかりやった上で、感染管理業務もしているかという評価も重要です。したがって、兼務している2つの業務の上司に同じように評価をしてもらい、両者の評価をウエイトで計算して最終評価を出したほうが、周囲も納得がいくこともあると思われます。本人の納得感とともに、周囲の納得感にも留意して、評価者を決めることが肝要です。


【2024. 10. 1 Vol.601 医業情報ダイジェスト】