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労働条件明示義務の強化と病院における配属のあり方

2024年4月施行の労働条件通知書追加事項について
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、某法人の人事部で、4月から異動で来られた方と名刺交換をしたところ、名刺に介護福祉士と介護支援専門員の資格が記されていました。
介護福祉士で就職し、その後介護支援専門員として活躍されていた方に人事部に来てもらったそうです。そこで人事部長に、全く違う業務への異動で大丈夫でしたかと尋ねたら、当法人では異動は当たり前なので全く問題なく勤務してもらっているとのことでした。

今年の新卒採用者は、配属場所が希望していた所と違うと、「配属ガチャに外れた」と2週間も経たない内に退職してしまうといった報道を耳にするので、人事部に異動してきた若者は大したものだと感じた次第です。しかし、就社から就職に若者の意識が変わってきた今日、配属ガチャに外れることは即退職につながることが分かるようにも感じます。なお、配属先が決まった時点で、直ちに詳細な就業場所等労働条件を明示していれば、入社後に退職する事態は起こらないように思います。

この労働条件明示義務は、労働基準法施行規則等の改正により4月1日から強化されました。そこで今回は、この法改正を確認し、配属場所や業務の通知等のあり方について考えます。

2024年4月からの労働条件明示のルールの変更

今年4月1日から施行された労働条件明示のルールの変更は、①すべての労働者に対する明示事項②有期契約労働者に対する明示事項③無期転換申込権が発生する労働者への明示事項という3つの内容に整理できます。
職員を雇用する際には、労働条件通知書を原則として書面で交付しなければなりません。今回の法改正では、この通知書に記載しなければならない内容が追加されました。

①すべての労働者に対する明示事項としては、「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されました。従来は、雇い入れ直後の就業場所と業務内容についてのみ記載すればよかったのですが、これでは、就職した後にどのような異動があるのか、職員から予測がつきにくいので、職員が自分の将来のキャリアを予測できるように、雇い入れ直後の就業場所、業務内容に加えて、これらの変更の範囲を併せて記載しなければならなくなりました。
②有期契約労働者に対する明示事項としては、契約の更新がある場合は、新たに通算の契約期間や更新回数に上限があるのか否か、上限がある場合にはその上限の内容を記載しなければならなくなりました。
③5年以上継続雇用されている有期雇用労働者は、無期労働契約への転換を申し込むことができます(無期転換申込権)が、この申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨と無期転換後の労働条件を通知しなければならなくなりました。
病院においては有期雇用労働者も多く働いていますので、②③の詳細については、厚労省のウェブサイトを確認するなどして対応していただければと思います。

就業場所や業務内容の変更の範囲の明示

就業場所や業務内容の変更の範囲の明示についてですが、具体的には、「就業の場所」の雇入れ直後と変更の範囲を併記し、「従事すべき業務の容」の雇入れ直後と変更の範囲を併記することになりました。例えば、冒頭の人事部に異動となった方であれば、就業の場所の雇入れ直後は「A老人保健施設」、変更の範囲は「法人が指定する事業所」、従事すべき業務の雇入れ直後は「介護福祉士」、変更の範囲は「法人が指定する業務への異動を命じることがある」といったように明示すれば、法的には問題ないことになります。

総合職として、いくつかの業務を経験するジョブローテーションの仕組みがある冒頭に挙げた法人では、将来の業務をすべて書き出すことはできませんから、このレベルの明示で問題ありません。しかし、病院のように、医療技術職としての専門性を高めたいと考えて就職する職員が多い所では、ジョブローテーションは将来の事務部長等幹部の養成以外は不要と考えます。

なお、中途採用については、応募者の希望を優先して就業場所等を決めていると思われますが、これからは、新卒採用者についても、応募者の希望を重視して配属を考え、内定時等に労働条件通知書を交付すべきと考えます。そして、採用後すぐの退職を出さないためにも、就業場所や業務内容は、本人の希望を重視し、より具体的に明示して、労働条件を納得してもらった上で入職してもらうことが必要でしょう。多くの新卒者の希望を叶えるなど不可能と言われるかもしれませんが、希望が叶えられなければ、すぐに退職してしまう時代です。

配属や将来のキャリア形成まで、応募者の希望を考慮した採用が今後求められてくるように思います。ちなみに、日本看護協会の2023年調査では、新卒看護職員の離職率は10.2%と以前よりも高い傾向を示しています。


【2024. 5. 15 Vol.592 医業情報ダイジェスト】