保険薬局

(20)市販薬の過剰摂取を防ごう

若い世代に増えている市販薬の乱用
薬剤師 産業カウンセラー 荒井 なおみ
この話題を早く取り上げようと思っていたのですが、あっという間に月日が経ってしまいました。今回ようやく「市販薬の過剰摂取」について皆さまとご一緒に考える機会を持つことができました。薬の適正使用を促すのは、私たち薬剤師の役割です。市販薬をあまり扱っていない薬局でも、患者さんの相談に乗ることはできます。私たちはこの問題に対して何ができるのでしょうか。

1.薬物乱用の実態

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)/精神保健研究所/薬物依存研究部は、1987年以来ほぼ現行の方法論を用いてほぼ隔年で「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」を行っています。最新の2022年の調査は、対象施設1531施設のうち1143施設(74.7%)より報告された、患者自身から同意が得られ重要な情報に欠損のない2468症例を分析対象としています。
性別は男性が多く、年代は30~50代が中心的な年代層になっています。主たる薬物のうち、睡眠薬・抗不安薬は治療上必要な使用については含まれず、乱用水準以上のケースを使用とみなしています。前回調査に比べると市販薬症例は8.4%から1.1%と増加が認められています。

表1.生物学的な性別の構成


表2.全対象の調査時点における年代構成


表3.主たる薬物(上位5品目)


表4.市販薬の内訳


2.若い世代に増えている市販薬の乱用

少し古くなりますが、この調査について朝日新聞(2023年4月13日)が取り上げていました。NCNPの松本俊彦・薬物依存研究部長によれば、「市販薬を乱用する10代の多くが、不安緩和や意欲増進・抗うつ作用を期待して使用を始めるが、特定の成分は短期間で効用が薄れるために使用量がみるみるうちに増える。薬を飲まないと焦燥感や抑うつ気分、発汗などの苦痛が生じて薬をやめることが難しくなる」とのことでした。これこそ乱用による依存なのだなと思いました。
表3に「主たる薬物」を示しましたが、年代によって使用薬剤には大きな差があります。10代においては、市販薬が65.2%と大きな割合を占めています。市販薬は近所のドラッグストアですぐ入手できますし、インターネットでも買うことができます。市販薬は、手に入れやすさという点では断トツでしょう。昨今では、デキストロメトルファン含有群やジフェンヒドラミン主剤群が新たなジャンルとして台頭していると報告書に書かれていました。

少し気になったのが、「併存精神障害として若い世代においては神経症や発達障害が多く認められ、こうした精神障害に起因する心理的苦痛への自己治療的対処として、医薬品の不適切使用がなされている可能性が推測される」という記述でした。若い世代の市販薬の過剰摂取が、生きづらさを和らげるためだとしたら、私たち大人がこの問題にしっかりと向き合い、彼らを支えていく必要があるのではないでしょうか。

参考)【ジフェンヒドラミン】(報告書より)
* ジフェンヒドラミン含有群が含まれる製品として、睡眠改善薬の「ドリエル」や、抗アレルギー薬の「レスタミン」がある。臨床現場ではジフェンヒドラミンをあたかも意識をシャットダウンさせるために多量に使用する者と出会うことがある。その者たちは、コストパフォーマンスや過量服薬のしやすさから「ドリエル」ではなく「レスタミン」を使用する傾向があり、SNS でも同様の情報がやりとりされているようである。使われ方はブロムワレリル尿素主剤群の「ウット」に近いのかもしれない。

3.私たちには何ができるか

過剰摂取のきっかけが、興味本位ではなく辛さから逃れるためであれば、医療人として何ができただろうと考えずにはおられません。辛いから薬を飲んでいただけ、なのです。普段から周りの方々に声をかけ、SOSのサインに気付いていきたいと思います。声かけは、興味本位で始めた方に対しても良い結果をもたらすことでしょう。

 ①入りやすい薬局
 → 店構えや扱っている商品だけでなく、まちかど薬局・よろず相談薬局としてできることをやってみましょう。
 ②相談しやすい薬局スタッフ
 → 表情やしぐさはその人を語ります。あなたは相談されやすい?相談されにくい?
 ③患者さんに気軽に声をかける
 → 声をかけられたら、相談したい・話したい患者さんがいらっしゃいます。

今回は市販薬の過剰摂取、さらに若者世代の辛さについても考えてみました。ご参考になれば幸いです。


【2023.12月号 Vol.331 保険薬局情報ダイジェスト】