保険薬局

転職者の市況と展望

株式会社ウィーク  シニアコンサルタント 長谷川 周重
最近よく見る転職支援会社のTVCM、国内宿泊料金の高騰、タクシーのライドシェアの議論、路線バスの廃止や制限など、これらはいずれも人手不足が関わっている。
そうした中で令和5年11月10日公表の総務省統計局「労働力調査」(以下、労働力調査)では、転職希望者が初めて1,000万人を突破したことが報告された。コロナ禍も過ぎ、現在の転職市場はどのようになっているのだろうか。

●転職市場は売り手市場

冒頭で述べたとおり、転職希望者が1,000万人を突破し、コロナ禍以前と比べても今年は転職希望者が増加している。一方で、実際に転職した者は325万人となっており、ほぼ横ばいで推移している。つまり、転職希望者は増加しているものの、企業側はやみくもな採用に走っていない実態が浮かび上がってくる。世の中は人手不足というものの、企業の採用基準は変わっておらず、特定の転職希望者のみの採り合いに陥っているようだ。



●非正規雇用者の伸長が著しい

【正規、非正規の職員・従業員】
  • 役員を除く雇用者5,750万人のうち、正規の職員・従業員は3,617万人と、前年同期に比べ31万人の増加。2期連続の増加。非正規の職員・従業員は2,133万人と、13万人の増加。7期連続の増加。
  • 非正規の職員・従業員について、現職の雇用形態についた主な理由別にみると、「自分の都合のよい時間に働きたいから」が728万人と、前年同期に比べ33万人の増加。「家計の補助・学費等を得たいから」が379万人と、2万人の増加。「正規の職員・従業員の仕事がないから」が183万人と、28万人の減少。(労働力調査「結果の概要」より一部抜粋)


ここで注目したい点が、非正規雇用者が7期連続で増加していることだ。
非正規雇用を選択する理由として、近年「自分の都合の良い時間に働きたいから」という理由が、特出して伸びている。コロナ禍を経た影響だが、リモートワークの普及やパラレルワークの認知、多様性社会の生き方としてワーク・ライフ・バランスではなく、ライフ・ワーク・バランス志向者が広まってきていると考えられる。
薬局経営においても、従業員ニーズに基づく働き方の提案が広まっていくと考えられる。例えば在宅専門特化型の薬局の場合、アポイントメント時間が決まっているため、勤務シフトが組みやすく、残業のない店舗になっている。

●大手ドラッグストアの薬剤師採用が加速し、競争激化

コロナ禍から大手ドラッグストアの業績好調ぶりには目を離せない。売上高上位3社のウエルシアホールディングス、ツルハホールディングス、マツキヨココカラ&カンパニーは、決算説明会資料によると各社とも1年間で100店舗以上の新規出店を計画している。もちろん上位3社のみならず、ドラッグストア各社が、保険薬局単独もしくは併設店舗の出店に力を注いでいるのは言うまでもない。圧倒的な資金力と高利益体質で、保険薬局業界のゲームチェンジャーになろうとしている。さらにチェーン展開するドラッグストアは上場企業が多い。増収増益計画が株主とコミットされるにあたり、増収施策の1つとして、出店計画は必要不可欠な戦略である。薬剤師の採用が進まないと新規出店ができないため、採用熱は必然的に高まっている。
ドラッグストアの採用熱の高まりは、都市、地方に関わらず既存の保険薬局への脅威となるだろう。脅威の理由は2つある。1つは薬剤師の給与格差が広がること、2つめは働き方改革が進んでいることだ。

1つ目については、従来から保険薬局をメイン事業にしている会社と、ドラッグストア系の保険薬局では、年収差が50万~100万円程度ある。さらに住宅手当などの待遇差も大きい。また、昨今の物価高が続くと、生活品を多く取り揃えるドラッグストアでは、商品を社割で購入できることも魅力の一つとなっている。

2つ目として、以前は、労働時間が長い、年間休日数が少ない、肉体労働であるなどの理由でドラッグストアへの就職を避ける方もいたが、今は働き方改革が進んで軽減されている。そのため、採用力が高まり、人材が流入する傾向が強くなってきている。年収も好条件となれば断る理由がなく鬼に金棒だ。

●最後に

転職希望者が増えてきたが、中身をみると採用競争は激しい。ドラッグストアの台頭により、薬剤師の転職市場は、今後、待遇面も含めて大きく変わってくると予想される。働き方も多様化してきており、正規に拘らず、非正規雇用も含めて、時代に合わせた店舗運営に変更していくことも必要である。DX化、ロボット化によっても運営の仕方が変わる。時代の移り変わりに合わせて、人材採用も変化させてほしい。


【2024.1月号 Vol.332 保険薬局情報ダイジェスト】