介護

すべての介護事業所はADL維持向上の取り組みが必要

加算のためではなく、利用者のため
株式会社メディックプランニング  代表取締役 三好 貴之

▼ 前回改定は、基本サービス費アップ、加算ダウン

前回の介護報酬改定は、まだ完全なるコロナ禍であったため、多くの事業所では基本サービス費が上がり、その分、加算が減少するという配分となりました。例えば、通所リハビリでは、リハマネ加算が再編され、リハマネ加算(Ⅰ)を廃止して、基本サービス費に包括されたことで、基本サービス費が上がりました。また、リハマネ加算(Ⅱ)(Ⅲ)は、新たにリハマネ加算(A)(B)に再編されましたが、実質、加算額は減算されました。
また、通所介護の個別機能訓練加算も再編されました。機能訓練指導員を2名配置し、機能訓練を提供した場合、個別機能訓練加算(Ⅰ)(Ⅱ)の同時算定で102単位でしたが、実質的に個別機能訓練加算(Ⅰ)がなくなり、個別機能訓練加算(Ⅰ)ロで85単位に減算されました。おそらく、このような加算の減額は、コロナ禍において基本サービス費を上げるための苦肉の策だったと推測されます。

▼ADL維持等加算が10倍に

 しかし、そのなかでも、報酬が10倍となったのが「A DL 維持等加算」です。算定要件も緩和された上で、福祉系施設(通所介護や特養など)の利用者の利用初月と6か月後でのADLの変化を測定し、その維持・改善度合いによって算定の可否が決まる、いわゆる「アウトカム加算」と言っていいでしょう。「ADL維持等加算(Ⅰ)3単位/月」は「30単位/月」と10倍になりました。また、A DL維持等加算(Ⅱ)も「6単位/月」が「60単位/月」と、こちらも10倍になりました。
 筆者は、介護保険創設から介護報酬改定をみていますが、報酬が10倍になる加算は記憶にありません。つまり、これから通所リハビリ、訪問リハビリ、老健のリハビリ系施設は当然として、福祉系施設においても機能訓練を提供し、利用者のADL維持向上に努めなければならないという意味です。

▼通所系施設では差が顕著に

10月11日に開催された介護給付費分科会では、「LIF Eの活用状況の把握およびA DL維持等加算の拡充の影響に関する調査研究事業」の報告が行われ、そのなかで、ADL維持等加算を算定している事業所と算定していない事業所の比較がありました(図1)。
ADL指標のBarthel Indexを用いて利用初月と半年後を比較したところ、通所系施設では、ADL維持等加算(Ⅱ)を算定している施設の「-0.2」に対して、算定していない施設は「-1.2」と大きく減少していることが分かります。また、特養では、ADL維持等加算(Ⅱ)を算定している施設の変化は「-2.0」に対して、算定していない施設は「-2.3」とより減少していることが分かります。ADL維持等加算はアクトカム評価なので、このような差が出るのは当然ですが、特に通所系施設ではかなり差が出ていることが分かります。



▼加算のためではなく、利用者のため

このように明らかな差が出てしまった以上、福祉系施設のなかでも特に通所介護に関しては、今後、機能訓練に取り組んで利用者のADL維持向上に努めなければならないでしょう。筆者の関係先でも、新型コロナウイルス感染症の取り扱いが5類相当になった令和5年5月から、機能訓練を行っている通所介護は利用者が増加しました。一方、機能訓練を提供しておらず、1日型のレスパイト中心の通所介護は、5月以降も新規の利用者がほとんど増えない状況が続いています。それまでは、食事や入浴のために通所介護を使わなくてはいけないと思っていた人が、コロナ禍において、訪問サービスを利用して何とかなったため、わざわざ通所介護を使う必要がなくなったのが要因のようです。

しかし、機能訓練に関しては、機能訓練指導員やリハビリ機器が必要なため自宅で行うのは難しく、コロナ禍で自宅に閉じこもっていた方が新規利用を始めています。

また、「自分の心身機能は、自分で維持したい」という利用者は多く、今後、団塊の世代が利用者の中心になってくると、さらにこのような傾向が強くなるのではないでしょうか。次回の介護報酬改定でLIFEが居宅介護支援事業所に導入された場合、ケアマネジャーのADL維持向上や機能訓練に対する意識が高まることが予測でき、機能訓練に積極的に取り組む施設の方が、優先的に新規利用者が増加するのではないでしょうか。よって、現在、機能訓練に取り組んでいないレスパイト型の通所介護の経営はさらに厳しくなるでしょう。このような施設は、一刻も早く機能訓練を導入していきましょう。


【2023. 11. 15 Vol.580 医業情報ダイジェスト】