組織・人材育成

拡大路線にあるクリニック院長先生のモヤモヤ

スタッフとの付き合い方を振り返った事例
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
月日は巡り、あっという間に寒さを感じる季節になってきました。コロナ禍も8波について議論されるようになってきましたが、これまで以上の医療者負担に繋がらないことを祈るばかりです。
今回は組織が拡大する途上にあるクリニックの院長先生がモヤモヤに気付き、スタッフとの付き合い方を振り返った事例から、より良い組織の在り方を考えましょう。

ケース:

「最近疲れているんです…」とスッキリしない表情で訴えた、住宅街にあるクリニックの院長先生のお話です。
このクリニックは20年目ですが、需要の拡大に伴いここ数年でスタッフ数が1.5倍に増えています。
このクリニックと筆者との付き合いは10年程となっており、当初は定着率が低く組織づくりに右往左往していた院長先生でしたが、徐々にスタッフとの関係性に自信が付き、ここ数年は中長期的なクリニックの展望を見据えて拡大路線を選択したのです。

「お疲れとのことですが、具体的にどのような時に疲れを感じるのですか?」と筆者が尋ねたところ、押し黙った院長先生。しばらくすると、「私は焦っているのかも知れません」との返答でした。

詳しくお話を伺うと以下の様子。
  •  最近予約した診察時間に終わらないことが増えており、時間に追われる自分にイライラしている
  •  スタッフを増やすことは自分で決めたことであり、ベテランスタッフもサポートしているが、新人教育はもちろん給与計算等の事務的な仕事を含めて自分の業務が格段に増えたと感じている
  •  阿吽の呼吸で仕事を行っていたベテランスタッフよりも育っていない新人スタッフと一緒に診療する方がイライラしてしまう自分に気付いた
  •  業務効率を上げて収入を上げるためにスタッフを増員したが、新人は育たず収入も上がっていないと私は感じている
  •  増えたスタッフは子育て世代の女性が多いため、業務外で院内に残って学習する時間よりも自宅学習の時間の方が多く、スタッフの努力を自分の目で確認することができない
  •  診療時間外に自己研鑽に励んでいた私からすると、今のスタッフはやる気が無いように見えてしまう(自分の目の前で努力が見えず、業務結果に表れていると思えないため)
  •  私は「自分に甘い(ように見える)人」が嫌いなのだと思う…ベテランスタッフはストイックに仕事に取り組む人が多かったので、のんびりペース(だと感じる)な新人スタッフにどう接してよいか分からない
  •  自分の思い通りに人も組織も変化しないことに焦りとイライラする心に疲れているのだと思う

ここまで吐露した院長先生は「私」「自分」という単語を多用していたことに気が付きました。
「私はスタッフの目線になれていなかったのだな…自分を基準として判断し、出来ていないとイライラするし、スタッフに怒りを覚えてしまうのだ」
自分の普通は相手の普通ではないことに気付いたという院長先生は「今まで学習メニューは私が考え、私がスタッフに指示を出していました。私が考えた方法が一番効率の良い学習方法だと思ったからです。ところが人によって学習スピードも学習の仕方も異なるはずですよね。新人さんに、どうしたら成長に繋がる学習ができると思うかアイデアを出してもらおうと思います!彼らにはその力があります!」と力強い発言に!今まで長くクリニックを支えていたスタッフが「普通だ」と思っていた院長先生でしたが、長くクリニックに勤めているのですから自分たちが良いようにクリニックを築き上げてきたことにも気が付いたようです。

 院長先生「新人さんも含めて、スタッフと一緒により良いクリニックを作り上げるという気持ちを新たに取り組みます」
その後、スタッフの成長スピードに合わせた個々の学習プログラムが作られ、試行錯誤しながら組織は確実に成長を遂げています。

このケース、どういう感想を持ちましたか?
組織が形を変える段階に入ると、どこかに負荷がかかることがあります。当然、院長先生という立場であれば負荷は大きくなりやすいものです。心身ともに負荷が高まれば周りを見る余裕が無くなり、自分が考える以上に視野が狭くなりがちです。視野は自分を中心に広がったり狭くなったりするものですから、視野が狭くなればなるほど自分本位になりやすくなります。実際にベテランスタッフに話を聞いたところ、「実は新人スタッフに対する院長先生の当たりがとても強くて…困っていたところだったので上村さんに話をしてもらえて助かりました」という言葉がありました。どうやら新人スタッフは新人なりに成長をし続けていたようなのです。しかし、院長先生の想像する成長スピードではなかったために院長先生の指導は次第に威圧的になり、結果として新人の成長を院長先生自ら止めてしまっていたという皮肉な状態になっていました。
この院長先生は自らを振り返る機会を定期的に作っているので早期対応が出来ました。皆さまはいかがでしょうか?


【2022. 11. 15 Vol.556 医業情報ダイジェスト】