組織・人材育成

経営にスタッフを巻き込もう!

スタッフの改善行動の背中を押すための方法
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
コロナ禍も新たな局面を迎えつつありますね。私は年が明けてからあっという間に月日が過ぎている感覚がありますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
今回は経営改善にスタッフを巻き込みたい院長先生からのご相談から、スタッフの改善行動の背中を押すための方法について考えていきましょう。

ケース:

ある歯科クリニックで事務担当の方が新人さんに変わるタイミングで起こったお話です。長年勤めていたAさんが家庭の都合のため退職することとなり、新人Bさんが入職しました。

受付の引継ぎ期間は約1か月。Aさんは業務内容を資料にまとめ、Bさんに丁寧にお伝えしていきました。引継ぎの時期はちょうど患者さんが多く、忙しくなる時期だったこともありバタバタしながらも日は過ぎていき、Aさんは惜しまれつつ退職していきました。
次の月、いつもの通り院長先生が前月の実績である患者数(新規患者、既存患者数)や治療件数などについて確認しているとあることに気が付きました。
「口腔内の定期健診の件数が明らかに減っている!」
定期健診は前回受診から間隔が空き、患者さんが忘れてしまうことも多いため、このクリニックではお手紙を郵送することにしていました(いわゆるリコールです)。リコールは受付が担当していたのですが、どうやら今回の引継ぎのタイミングで業務に漏れが発生していたよう。院長先生は憤慨し、全体ミーティングでスタッフにこう伝えたのでした。

院長先生「こんなに定期健診の患者さんが少なくなっています。だから先月の売上がこんなに落ち込みました。そうすると皆さんの給与も払えなくなってしまいます。こうならないように各自意識してください」

上記について、息を荒くして筆者に報告した院長先生でした。

上村「それは驚かれましたね。ミーティングでスタッフの皆さんにお伝えしたとのことですが、どのような反応でしたか?院長先生の考えは伝わったと思いますか?」

院長先生「何か反応があるということではなく、静かに聞いているような感じでした。伝わっているんだか伝わっていないんだか…」

上村「院長先生は伝えることが目的では無かったと思います。伝わったことでスタッフの行動が変わることに期待されたのだと思いますが、具体的にどのような対応を期待していましたか?」

院長先生「それはスタッフがそれぞれの立場で考えるべきことかと…」

上村「質問を変えてみましょう。どうしたらスタッフは院長先生が期待する行動に変わることが出来ると思いますか?院長先生がお伝えしたように、やや脅しと捉えられかねない言葉かけで変わると思いますか?脅しで行動が変わることを望んでいるのですか?」

院長先生「…私の残念な気持ちを伝えることを優先していたということですね。目的はクリニックのより良い改善なのに、憤りを分かってほしい気持ちが勝ってしまっていました。反省です」

上村「提案なのですが、患者さんが気持ちよく定期健診に来てもらえる方法について、良い機会なのでスタッフの皆さんとお話しされてはどうでしょうか?」

この後、スタッフと話し合いを持った院長先生。洋服屋さんでどのようにリピート客に来てもらう工夫をしているかなど、身近なテーマから話し合いを行いました。そして、今までは院長先生が改善案を提案してスタッフがそれに従うことが多かったこのクリニックで初めて!スタッフ発案のアイデアが採用されたのでした。
その後、そのアイデアにより結果が出てきていることもあり、発案者であるスタッフを中心に組織全体の活気が出てきているようです。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
経営者の視点を持ってほしい!経営全体を考えた改善を検討してほしい!と願う院長先生は多くいらっしゃると思いますが、その思いが強くなりすぎてしまい、このケースのように脅しのような表現になってしまうことも少なくないように思います。
「北風と太陽」という童話にもある通り、恐怖などネガティブな感情による支配は結果に結びつきにくいことは頭で分かっていても、無意識にそのような行動をしてしまうことはよくあることです。スタッフの行動変容が自分が思うようにいっていないことに気が付いたら、スタッフと一緒に「どのようにしたら問題が解決するか」を考える時間を取るのはいかがでしょうか?忙しく時間がさほど取れないのであれば、事前に質問をスタッフに配って、考えていただきましょう。「院長先生の憤りを伝える」のではなく「結果としてスタッフの行動変容を導く」ための工夫を考えてみませんか?


【2023. 3. 1 Vol.563 医業情報ダイジェスト】