組織・人材育成

院内検定は医療機関の職員の知識・技能の向上に有効か

厚労大臣が認定する社内検定認定制度とは
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、腹部エコーの検査をクリニックで受けたところ、2名の臨床検査技師が検査を行ってくれました。おそらく最初に担当した技師の方は、技術的にまだ十分ではないため、先輩がフォローに入り、最終的なチェックと指導をしていたものと思われます。臨床検査技師という国家資格を有しているとは言え、エコー検査などは、職場に入って指導を受けて身に付けていくのでしょう。

医療機関で働く国家資格を有する職員の専門的技術は、国や職能団体が、育成のための基準や認定資格を定め、その質の向上に努めるのは当然であり、エコー検査についても超音波検査士という認定資格があります。医療専門職は、このような認定資格を目指すことで、知識・技能の向上を図ることがベストだと考えます。ちなみに、このような基準をエクスターナルな基準と言います。
しかし、医療機関の幹部の中には、認定資格を有しているからといって、必ずしも仕事ができるとは限らないと言う方もおられます。院内で、院内の職員に合った育成のための基準を持つべきだという意見です。このような基準をインターナルな基準と言います。ちなみに、筆者が支援した医療機関の中には、院内検定の仕組みを持ち、その基準にしたがって、職員を専門職として育成しているところがあります。企業では、社内検定を持つところは珍しくありませんが、医療機関ではあまり聞きません。ちなみに、厚生労働省は、一定の基準をクリアした社内検定を認定してお墨付きを与える「社内検定認定制度」を設け、社内検定の導入を後押ししています。そこで、今回は、医療機関における院内検定について考えます。

厚労大臣が認定する社内検定認定制度とは

社内検定は、多くの企業で、社員の知識・技能の向上のほか、技能の見える化や、社員のモチベーション向上などを目的に導入されてきました。こうした社内の自主的な制度に対して、特定の知識や技能の評価や運営方法、実施体制などについて一定の基準を満たしたものを、技能振興上奨励すべきであると厚労大臣が認めるのが社内検定認定制度です。この制度については、厚労省のホームページに、社内検定認定要領、社内検定認定規程、社内検定構築マニュアル等掲載されていますので、関心のある方は目を通されるとよいでしょう。
 厚労省が行っている、労働者の知識・技能の向上を進める施策は、この他に、技能検定制度と職業能力評価基準があります。先日、知り合いのコンサルタントから、「なぜ企業は自分たち独自で人事評価制度を構築し、職業能力評価基準を活用しないのか」と聞かれましたが、その理由に、内容が膨大で分かりにくいことがあると考えます。
国が生産性を上げるために、労働者に対するさまざまな施策を整備することはよいことですが、使われない施策は無駄であり、今後、導入と運用のしやすさに目を向けた改善が必要でしょう。

医療機関における院内検定による職員の知識・技能の向上

ここからは、導入事例をもとに、社内(院内)検定の効果を説明します。事例は、透析クリニックを中心に運営している医療法人で、エコー検査の知
識・技能習得の院内検定があります。
この法人では、検体検査は外注のため、臨床検査技師の主な仕事は、超音波検査や心電図などの生理機能検査です。「超音波検査ができる技師の採用は難しいのではないか」と尋ねたところ、院内で養成するので、採用には全く困っていないとのことでした。院内検定を導入している成果と言えましょう。若い臨床検査技師は、エコーの技術が習得できるということで、大勢応募してくるそうなのです。

医療機関においては、各職能団体がさまざまな認定資格を用意していますので、院内検定を作るまでもなく、外部の認定資格取得を支援する制度があれば十分と考えてきました。しかし、院内検定により、自院に必要な知識・技能を直接的に身に付けさせたほうが、効率的かつ効果的であるとも言えます。また、それら知識・技能の洗い出しと整理を院内で行う際に、指導する立場の職員の育成にもつながることが期待されます。

事例の法人では、心エコー、腹部エコー、頸動脈エコー、下肢静脈エコー、甲状腺エコー等々、部位ごとの習得に対し、1部位10,000円弱程度(部位により異なる)の月額手当を加算しています。このように、院内検定を有効化するには、手当などの処遇に反映させることがポイントだと考えます。
医療機関においては、厚労省の社内検定認定制度の認定を受ける必要はないと考えますが、院内検定は専門職の育成に有効です。


  【2022. 6. 1 Vol.545 医業情報ダイジェスト】