組織・人材育成

病院の理念と従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントとは何か
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、新任の評価者研修会を丸2日間、担当してもらえないかというご相談をいただき、対面の集合研修であれば、お受けしたいという話をしました。職員の貴重な時間を2日間も使ってリモート研修では、あまり効果が得られないのではないかと思ったからです。新任の評価者である同じような立場の職員が、評価者研修という機会で顔を合わせ、対面のグループワークなどを通じて、お互いの仕事に対する考えや病院に対する思いを共有することは、従業員エンゲージメントの向上にも多少役立つのではないかと考えたからでもあります。
企業では、新型コロナウイルス感染症拡大により一時期リモートワークが推奨されましたが、それによって組織内でのコミュニケーションが不足し、会社に対する不信感や不満が増加するのではないかという心配の声も聞かれます。そのため、最近は、従業員エンゲージメントの向上が必要だとも言われています。今回は、この従業員エンゲージメントについて考えます。

従業員エンゲージメントとは何か

従業員エンゲージメントとは、会社が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識、行動しようという意欲を持っていることを指します。筆者は研修会で、病院から給与を受け取っている以上、それに見合った組織貢献をしなければならないと常に伝えていますが、他人から言われて持つような貢献意識や行動はエンゲージメントとは言いません。

病院においては、(公財)日本医療機能評価機構が行っている病院機能評価において、「理念・基本方針を明確にしている」という評価項目が設けられ、設立の趣旨や運営上の信念、基本精神、その地域に存在する意義等を理念として示すとともに、理念を実現するために守るべき重要事項を基本方針として、明確に、分かりやすい言葉で、病院の内外に周知することが求められてきました。まずは、病院の理念や基本方針、ビジョン等を示すことが従業員エンゲージメントを向上させるスタート地点であることは間違いありません。ただ、それを理解し共感してもらい、病院に貢献したいという自発的な行動意欲を高めるには、さまざまな取り組みが必要になると考えます。

職員の共感度と行動意欲を高めるために

筆者が在職していた病院では、新入職員研修会、中途採用者研修会、中堅職員研修会、指導職研修会、管理職研修会等階層別研修を行っていましたが、各研修の中に、病院のトップをはじめ、部長クラスの講義が必ず組み込まれ、病院の理念や、地域の中でどのような役割を担っていきたいかといった中長期のビジョンが、職員に直接語られていました。直接、対面でトップの思いやビジョンを聞くことで、職員は共感し、さらにこの組織のために頑張りたいという意欲を持ってくれていたものと考えます。現在、いろいろな病院に関わる中で、病院のトップが職員に語りかける場面が意外と少ないように感じます。何か機会のあるごとに、自分の考えを職員に発信する時間を持つことは大事なことでしょう。病院のトップや幹部が、病院の理念や基本方針等を一貫して同じ言葉で直接職員に語りかけることが、共感度を高めることになると考えます。
また、従業員エンゲージメントを高める活動として感心したことに、支援した病院で、各部署の1年間の活動結果を、職員の写真とともに廊下一面に張り巡らせていた所がありました。病院の理念の実現を目指した各部署の活動が、職員食堂や会議室などのあるフロアの廊下全体に貼られ、職員に共有されていましたが、このような活動は組織への共感度を高めることになると思われます。職員一人ひとりの活動が、病院の理念や事業計画の達成につながっていると感じられることで、自ら行動しようという意欲も高まるのではないでしょうか。すなわち、病院の事業計画から、各部署の目標、さらには職員一人ひとりの目標へとブレイクダウンして活動し、職員全員の努力によって、病院の事業計画を達成する目標管理の手法は、エンゲージメントを高める有効な方策であり、その達成結果を先述の病院のように周知し共有することで、共感とさらなる行動意欲を引き出すことになると考えます。

病院のトップから職員への働きかけは、対面のほうが思いが伝わるように感じますが、支援している病院の中には、コロナを契機にリモートで毎日10分間のミーティングを行い、トップから職員に大事なことを伝えるようにした病院があります。伝達の頻度を多くすることで、共感度を高めることにつながっていると思われます。いずれにしても、病院のトップや幹部と職員との関係性を深めることが、従業員エンゲージメント向上の第一歩であり、これからの病院マネジメントにおいて重要なことでしょう。


【2023. 5. 1 Vol.567 医業情報ダイジェスト】