組織・人材育成

パワハラ対策を「している」?

パワハラを訴えるスタッフと戸惑う法人代表のお話
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
ゴールデンウイークが過ぎ、次の祝日7月に向けてお仕事にまい進されているとお察しいたします。
さて、今回のテーマは「パワハラ」です。2022年4月から中小企業にも「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が義務化されました。この義務とは、パワハラ防止方針の明確化や相談体制の整備、パワハラに関する労使紛争を速やかに解決する体制を整えることを指します。しかし、コロナ禍では十分な対応ができなかった医療機関は少なくないと感じています。パワハラを訴えるスタッフと戸惑う法人代表のお話から、組織として対策するという意味を考えていきましょう。

ケース:

クリニックから在宅医療まで幅広く事業を展開する医療法人のお話です。その法人にあるクリニックの看護師Aさんからご相談を受けました。

Aさん「X医師が来てからクリニックは大変です。X医師のその日の機嫌によってスタッフや患者さんにまで恫喝したり無視したり、またある日は馴れ馴れしくされたり…この状況で心身症状を訴えている同僚もいるんです」

筆者「辛い状況ですね。法人にハラスメント委員会など、訴える仕組みはありますか?」

Aさん「もちろん直属の上司に言いました。ハラスメント委員会もあるので事実をまとめて書面でも出しました。私だけではなく他の職員も書面を出しています。ただ動きがあるか分かりません…」

このお話を受け、Aさんの承諾のもと医師である法人代表にお話を伺いました。

代表「X医師については前職から問題のある医師であったと聞いていました。でもX医師は若くとっても一生懸命なのです。X医師は改善しようと声を荒げることもあると聞いています。私としては、問題はあるにせよ拒絶するのではなく自分の組織で学ばせて、成長の機会を与えたいと思っています。Aさんの主張も聞いていますが、Aさんは事実を誇張する傾向があるのです。そのため、Aさんの主張だけで動くことは考えていません。事実であればハラスメント委員会があるので、そこで何とかやってくれているでしょう」

筆者「代表のお考えはよく分かりました。ところで組織としてハラスメント対策はどのように取り組まれていますか?」

代表「ハラスメント委員会があるのでそこでやっている『はず』です。研修?私は知らないけどやっているのではないですか。就業規則への記載もある『はず』です」

後日、ハラスメント委員会の委員長であるBさん(法人本部所属の看護部長)に確認したところ、研修は企画されていたがコロナ禍で無期延期になっていたとのこと。規定もあるが職員に周知されているかどうかは不明。パワハラ事案があった際の相談窓口は職員更衣室にポスターが掲げられており、書面が提出されることはあるようですが、「困ったね~」「仕方がないよね…」と事実を共有するのみで、対策を話し合い、実行する様子はありませんでした。
日々は無情にも過ぎていくばかり。本日、心身症状からお仕事をお休みするスタッフがまた1人出てしまい、現場の雰囲気は悪くなる一方です。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
いくつか問題が隠れていますが、組織づくりの観点から大きく課題を3つ取り上げたいと思います。
まず1点目に「組織におけるパワハラ定義とその対応の不明確さ」です。詳しくは社会保険労務士さんなどにご相談いただけると良いと思いますが、そもそも定義はもちろん周知もされていないものに対して議論すること自体、組織として対応できるはずもありません。2点目は「機能していない(目的を果たしていない)仕組みは、仕組みと言えない」です。仕組みがあることを確認できていない管理者は、厳しい言い方をすると管理者とは言えません。3点目は「パワハラを放置することのリスクを過小評価していると見える」です。この法人代表もリスクを過小評価している訳ではないと思いますが、結果としてパワハラのような事象があるにも関わらず積極的に動かず放置している事実は、リスクを過小評価していると言えると考えます。

以上はパワハラに限らず組織として仕組化するに当たって重要な視点と考えます。皆さまの組織では如何でしょうか?たとえクリニックという小さな規模であったとしても、職員の皆さまが安心して働くことができる環境を作れるよう、組織づくりを脅かすハラスメントが起こったとしても対処できる仕組みづくりについて振り返っていただければ幸いです。


【2023. 6. 1 Vol.569 医業情報ダイジェスト】