組織・人材育成

人事賃金制度と職員の確保と定着

職員の育成や処遇の重要性を理解する
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、評価者研修でお伺いした病院の理事長先生から「今年、新卒の看護師を5名採用できたのは当院では考えられなかったことだ」とご報告いただきました。地方の中小の精神科病院で、新卒の看護師採用など諦めていたわけですから、喜びのご報告です。こちらの病院は、人事賃金制度を導入して3年が経過し、この間、コロナ禍でリモートでの支援も余儀なくされたわけですが、今回、評価者研修で指導職や管理職を見ていても、若い指導職が増え、当初と比べ雰囲気が大変良くなったと感じました。

そこで今回は、人事賃金制度と職員の確保と定着について考えます。

職員の育成や処遇の重要性を理解する

冒頭の病院では、人事賃金制度の構築にあたり、病院のトップや幹部、事務の担当者に検討メンバーに入っていただき、職員の育成や処遇のあり方への理解を深めてもらったことが、導入後3年程度で人事賃金制度の運用が上手くいき、職員の確保等に効果が出てきたものと考えます。例えば、管理職へ進む道だけでなく、専門職として進むコースも設けた複線型の昇進制度についても、理事長先生によくご理解いただき、感染管理や医療安全、褥瘡管理、教育研修等の専門家を養成して、専門科長や専門主任として昇進させて活躍してもらうなど迅速に対応されています。トップ自ら考えて進めて来られたからこそ、スムーズに運用されているのだと感じます。これらの専門職コースに進んだ人材は、従来の仕組みでは、管理職のポストしかなかったわけですから、上の役割を担う機会を逸して残ってくれなかったように思われます。
また、今年の看護部門の目標の中に新人の定着を図ることが挙げられ、すべての師長の目標管理シートに新人の定着を図るための具体的な方策がたくさん書かれていました。例えば、「新人との面談を2週間に1回定期的に行う」「新人に統一した指導が行えるよう、医療安全、感染管理、褥瘡、個人情報保護、精神保健福祉法等のビデオを作成する」「プリセプター制度を導入する」といったことが、看護部の目標からブレイクダウンして、師長の目標としてしっかりと書き出されていました。病院の事業計画を立てることや、部署の目標を立てることに躊躇して、目標管理の導入に難色を示す病院もありますが、3年程度でしっかりと目標を立てて活動できるようになるわけですから、それほど難しく考える必要はないのではないでしょうか。

人事賃金制度を導入することで、あらためて管理職が、職員の育成や処遇のあり方について考え意識をするようになることが、重要な第一歩であり、こちらの病院の今年の目標管理シートを読んでいて、人材が集まるいい病院になるものと感じました。

人事賃金制度に精通した事務担当者の活躍

人事賃金制度をスムーズに運用するには、事務の担当者にも十分制度を理解してもらい、中心となって活動してもらうことが大事です。中心となる人材を決めないと、リンゲルマン効果(無意識の手抜き現象)を起こし、なかなか上手くいきません。こちらの病院では人事課を置くほどの規模ではないため、事務の幹部の1人が人事業務を兼務していますが、この方に人事評価委員会の委員長になってもらい、人事賃金制度運用の責任者として活躍してもらっています。
 今回の採用についても、近隣の病院の賃金水準を詳細に調べた結果を基に「看護師の初任給を少し上げることで人材の確保につながると思われるためベースアップを行いたい」という提案があり、ベースアップをしたことが、新卒採用につながったものと考えます。

この担当者からの提案は「ベースアップを行うことは病院経営にとっては負担が大きいことから、今年に限り定期昇給を例年の2分の1にして、初任給を上げる方策を取りたい」というものでした。例えば、4,000円の定期昇給であれば、定期昇給は2,000円にして、ベースアップを2,000円行うという方法を取れば、初任給は2 ,000円アップし、在職中の職員は、例年と同じ4,000円の昇給で変わらないわけですから、このような形で、初任給を上げたいという提案だったわけです。人事評価委員長である事務担当者が、ハローワークの近隣病院の求人情報を収集し分析し、例年と同じ昇給額の範囲で、初任給を持ち上げ、その結果、看護師の新卒者採用につながったことになります。3年という短い期間で、病院人事マンとしての力が身に付いたものと嬉しく思います。

労働集約型産業である病院において、病院のトップが中心となり、人事賃金制度を整備することで、短期間で、職員の育成や処遇を考えることができる人材を多く生み出すことができ、組織がいい方向に向かいつつあると実感しています。


【2023. 6. 15 Vol.570 医業情報ダイジェスト】