組織・人材育成

職員の高齢化対策

早期退職優遇制度による人材の流動化
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、某病院で60歳以上の雇用のあり方について議論しました。60歳定年再雇用で、60歳から65歳まで賃金を現役時の6割まで下げて雇用しているが、中途半端な雇用で戦力になっていないため、早急に見直したいというのです。賃金を下げられ不満を持って勤務している夜勤をしない看護師を大勢抱えていることや、他の医療技術職や事務職でも、定年で役職がなくなり、実務面での能力が落ちた人材を抱えていたのでは、人件費は増えるばかりだというわけです。年功序列型賃金で初任給の倍以上に膨らんだ基本給を6割に下げても、20代の職員よりも高額なのですから当然の意見でしょう。年功序列型賃金の病院では、すでに職員の高齢化の問題が顕著になりつつあると思われます。

そこで、今回は、職員の高齢化対策について考えます。

賃金制度と定年年齢の見直しと働く環境や実務再教育の体制整備

2025年に高年齢者雇用安定法の経過措置が終了し、65歳までは継続雇用を希望する職員全員を雇用する義務が発生するわけですが、現状でも、本人が希望すれば65歳まで再雇用をしている所がほとんどと思われるため、影響はないでしょう。しかし、冒頭の病院のように、60歳以上の職員を多く抱える高齢化が進んでいる病院では、さまざまな課題があるものと思われます。冒頭の病院の課題は、再雇用でも賃金が割高で、組織への貢献度が低いため生産性が上がらないことです。したがって、この解決策は、年功序列型賃金を見直すことと、60歳以上の職員の組織への貢献度を60歳前の状態で維持することです。

65歳まで、あるいは70歳まで組織に貢献してもらうためには、定年年齢は引き上げざるを得ません。嘱託扱いにしておいて、今までと同じように働きなさいというのは虫のいい話です。なお、定年年齢を引き上げるためにも、賃金体系の見直しは必須です。冒頭の病院の看護師も、再雇用ではなく正職員として働いてもらい、夜勤を継続してもらえればよいわけです。その際、年齢の高い職員でも夜勤のしやすい環境を整える必要はあるでしょう。例えば、年齢の高い職員2人で1人分として考え、夜勤の配置人員を増やすことで、60歳以上でも夜勤に就いてもらうとか、夜勤回数を減らすといった配慮は必要と思われます。それでも、全く夜勤に入ってもらわないよりは、組織に貢献してもらえるはずです。

また、定年年齢を65歳等に引き上げるのであれば、管理職を登用する年齢が高くなってしまいます。そこで、定年延長と役職定年はセットで実施すべきでしょう。しかし、役職定年制度を導入することで、働かない職員を増やしていたのでは何にもなりません。したがって、役職定年手前の年齢から、現場の仕事をしっかりできるような教育体制を整備する必要があります。マネジメントの仕事と現場の仕事は異なります。しかも現場の仕事は、最近はテクノロジーの進化にともない絶えず変化しています。年齢で役職を外され、自分より若い管理職の下で働くことになってモチベーションも下がり、現場の仕事に貢献できない60歳以上の職員を多く抱えていたのでは、生産性が上がるわけがありません。したがって、最近言われているリスキリングではありませんが、現場の仕事をしっかり行えるような実務の再教育の仕組みの構築が必要と思われます。

60歳前後の職員は経験値は高いわけですから、再教育や技能向上を行う機会を作ることで、60歳以降の活躍も期待できます。すなわち、職員の高齢化が進む前に、高齢者の処遇のあり方と働く環境、再教育の仕組みを整備する必要があるのです。2021年4月の法改正で70歳までの雇用確保が努力義務になっていますから、65歳と言わず70歳まで働いてもらうことを視野に入れて、これらの体制整備を行うことが、少子高齢社会における労働力確保と生産性の維持向上のために重要な施策です。

早期退職優遇制度による人材の流動化

企業においても雇用の流動化が進んでいる今日、病院でも中高齢者の流動化を進めるために、第二の人生を歩みやすくする支援を行うことも必要です。60歳前に役職を降りて現場で実務を担いたいという人だけではなく、現在の管理職としてのスキルを起業して活かしたいとか、得意な分野の専門性をさらに高めて他の組織で活かしたい、あるいは、役職を降り、看護師として患者さんの看護を直接担うのであれば、急性期ではなく療養型の病院で働きたいなど、将来について考える時期があるものと推察します。
 筆者も同様にそういう時期があり、49歳の時に病院を辞め起業したわけですが、起業する時には、退職金がかなり役立ちました。中高齢者の流動化を進めるためにも、50歳位からの早期退職希望者への退職金の割増制度を設け、第2の人生を考えるきっかけを作ってはいかがでしょうか。
なお、退職年齢にもよりますが、2割から4割程度の早期退職金の割増率は必要と考えます。


【2023. 7. 1 Vol.571 医業情報ダイジェスト】