組織・人材育成

ミスの少ない組織を作るなら

組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
季節は梅雨から夏に変わろうとしています。アフターコロナとなり、今年は街中に人が溢れる夏休みの風景が蘇るでしょうか。この夏も体調管理に留意して過ごしていきたいですね。さて、今回はミスを防ぐ対策が進まないと嘆く院長先生のケースをご紹介します。

ケース:

日本の南に位置する住宅街にあるクリニックのお話です。このクリニックに勤めるスタッフは真面目にお仕事に取り組む一方、ミスを極端に怖がる傾向にあり悩んでいると、このクリニックの院長先生は語ります。

ある日、クリニックの都合で予約変更してもらった患者さんがそのことを忘れて変更前の時間に来院する事象がありました。その患者さんに十分に対応した後、以後このようなことがないよう、この予約変更を連絡した受付担当のスタッフAさんに院長先生は話を聞きました。

院長「Aさんが悪いとか犯人を捜しているのではなくて、二度とこのようなことがないように振り返りをしたいのだけど、どういう風に対応したの?」

Aさん「もう私が犯人で良いですよ!」

この後、Aさんは怒ってしまい、これ以上の検討をすることができなかったようです。

院長「何か業務に支障があった時には特定の個人から話を聞いたり、もちろん組織全体で話し合いを行ったり対策をとっているつもりですが、一向に改善された手ごたえがありません。みんなミスはしたくないはずなのですが、結果に結びつかないどころかスタッフとの関係性も悪化してしまい…悩んでいます」

筆者「何かしらクリニックの業務が滞った際にその原因をスタッフみんなで探るのはとても大切ですね。振り返りを行うことで二度と同じことを繰り返さないという意識が共有されます。ところが、『業務が滞らないようにしよう』と意識をすることは、その意図とは反対に『業務が滞る』ことに意識が向きがちになってしまう、ということでもあります。このことを踏まえると、業務が滞った時の話に注力するのではなく、業務が上手く回った時の要因にも意識を向けることをお勧めします。業務が滞る原因に『忙しかったから』という理由が挙げられることがありますが、必ずしも忙しいからと言ってミスが引き起こされるわけではないはずです。忙しくてもミスなく業務が回った時の要因について考えたことはあ
りますか?」

院長「上手く回ることが当たり前だと思っていたので…上手くいった理由に焦点を当てて話し合ったことは今まで無かったです。業務が滞った理由を検討するとき、スタッフは『自分が責められないように』と構えてしまい、話し合いの雰囲気があまり良くないと感じていたのですが、上手くいった時のお話であれば前向きな話ができますね…早速挑戦してみます!」

その後、このクリニックでは業務が滞り組織の雰囲気が悪くなってしまうことが、院長先生が驚くほど激減したとご報告をいただいたのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
自己啓発本などで「脳は否定形を認識できない」という類の話が出てくるためご存じの方は少なくないと思います。その真偽の程は定かではありませんが、否定形で表わされたものは意識され行動に現れやすい傾向はあるようです。例えば煙草を吸わない!と禁煙を掲げること自体が煙草を意識しやすくしてしまう、といった具合です。そのため、この組織にとって「業務が滞らないように」「ミスしないように」という話し合いをし過ぎることが、意識・無意識問わずスタッフにとって恐怖や不安を増長させてしまっていたようです。後でスタッフの方にこっそりお話を伺うと、業務における話し合いの中で院長先生は度々「患者さんに迷惑をかけないように」という言葉を強調しており、「自分たちは迷惑を掛けようとして掛けているわけではないのに、そのような言われ方をされることも不快だ」とも感じておられたようです。

組織の中で使う言葉を見直すことで意識がポジティブとなり、行動もより前向きになることがあるようです。ミスが起こら「ない」組織を目指すよりも、常に業務が上手く回る組織はどのような組織なのかスタッフ皆さんと考えてみることをお勧めいたします!


【2023. 7. 15 Vol.572 医業情報ダイジェスト】