組織・人材育成
採用の基準とその後…
採用基準について振り返った時に気づきを得たケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
夏も本格化していますね。私は熊谷や高崎、多治見のご近所といった「日本の酷暑と言えば!」という地域に定期的に訪問しておりますが、この時期は出勤時に「さあ行くぞ」といつも以上に気合を入れて伺います。さて、今回は定着に悩む院長先生の採用基準について振り返った時にある気づきを得たケースをご紹介します。
ケース:
関東の南、駅近くにあるクリニックのお話です。このクリニックではまた新人さんが3か月の試用期間を待たず辞めてしまい、院長先生は悩んでいました。
院長先生「私は出来る限りのフォローアップはしていたつもりでした。相手に寄り沿い、話を聞く姿勢を続けていたと思います。ただ、なぜか辞めていった人はみんな『院長先生が怖い』『院長先生が話を聞いてくれない』と口を揃えて言うのですよね……」
筆者「院長先生が苦労なさっていることは聞いておりますので、今回の退職も本当に残念ですね。ちょっと視点を変えて、採用の方法について目を向けてみませんか?また新しい人を採用すると思うのですが、具体的にどのような点を意識して採用されているのですか?」
院長先生「まずは履歴書の書き方を見ています。自己主張が強すぎないかどうか、どういう思いでこのクリニックで働きたいと考えているのか、読み手のことを考えた履歴書になっているのかを重視しています」
筆者「なるほど、履歴書をただ出してくるのではなく、履歴書から相手の気遣いが伺えるかどうかを見ているのですね。履歴書がOKとなった場合の面接についてはどうですか?」
院長先生「面接時間の20分以上前に来た人は全員採用していません。クリニックという少数精鋭で業務を回し、常に時間に追われている環境を理解していたら、20分以上前に来ることは無いはずです。受付でひと言『ちょっと早く来てしまいましたが……』と声を掛けてくれたらまだマシですが、それでも心証はあまり良くないですね」
筆者「そうなのですね!率直にやや厳しい印象を受けました」
ここで筆者からある地元密着型中小企業で実際に起きたケースを紹介しました。それは翌4月に地元の学校を卒業するという学生Aさん(ダメージジーンズ、ピアス、茶髪、挨拶は『ちーっす』)を採用した会社のお話です。この会社の社長は「この子をうちが雇わないと誰も雇わないだろう」「恰好と態度は問題しかないが元気は満点!」と覚悟の上で採用を決めたのでした。言動を一から直さなければならなかったAさんですが、どうも今まで目上の人との関わり方等、何も教わって来なかった(必要性を理解できていなかった)ことが判明。他の職員の方の負担はとてもとても大きかったとのことですが、Aさんの持ち前の明るさと素直さもあり、20代前半になった今では管理職になって活躍し、何より組織力が底上げされたのでした。
院長先生「目から鱗が落ちました。よくよく考えてみたら私が気にしていた点はインターネットで『印象の良い履歴書の書き方』『面接の受け方』等で検索をしたら出てくる表面的なものばかりだ。相手のことを気遣える人を採用していたつもりでしたが、減点方式で求職者を評価している私の方が相手を気遣っていないですね……。私自身が採用に当たりその人の良い面を捜せていなかったと気が付きました。今まで同じ採用方法で行ってきて、結果としてミスマッチが起きているのですから、根本的に『本当に何がこのクリニックにとって大切なのか』を考えた方が良いように思います」
その後、院長先生が本当に目指したいクリニックで働いている人はどんな人なのか、どんな雰囲気なのか根本から見直し、採用における絶対に外せない要素はひとまず「この人ともっと話がしたい、一緒に働きたいと思える要素のある人」となったのでした。院長先生は人を見る第六感が鍛えられると意気込んでいます!
このケース、どのような感想を持ちましたか?
採用を続けていくと「何が正解なのか」が分からなくなり、採用の基準となる条件が気づかぬうちに厳しくなってしまっている組織は少なくない印象を受けています。そして、その基準があるために求職者を減点方式で評価してしまうことで、このクリニックの院長先生のように良い点を捜す視点が抜けてしまうことは大いにあるようです。
新人さんにどんな背景があるにせよ、この組織で働くことは初めてなのですから、この組織における所有スキルがゼロの状態なのは当然です。つまり教えていくというコミュニケーションを重ねていき、新人さんも教育者も共に成長をしていくことになります。「この人なら採用しても大丈夫かな……」と減点が少ないから恐る恐る採用するのではなく、「この人のこの良い部分をクリニックで発揮してほしい!」と加点式で採用した方が、お互いにポジティブな気持ちでお仕事に挑めるような気がしませんか?この機会にぜひ採用基準について振り返っていただけると幸いです。
【2023. 8. 1 Vol.573 医業情報ダイジェスト】
院長先生「私は出来る限りのフォローアップはしていたつもりでした。相手に寄り沿い、話を聞く姿勢を続けていたと思います。ただ、なぜか辞めていった人はみんな『院長先生が怖い』『院長先生が話を聞いてくれない』と口を揃えて言うのですよね……」
筆者「院長先生が苦労なさっていることは聞いておりますので、今回の退職も本当に残念ですね。ちょっと視点を変えて、採用の方法について目を向けてみませんか?また新しい人を採用すると思うのですが、具体的にどのような点を意識して採用されているのですか?」
院長先生「まずは履歴書の書き方を見ています。自己主張が強すぎないかどうか、どういう思いでこのクリニックで働きたいと考えているのか、読み手のことを考えた履歴書になっているのかを重視しています」
筆者「なるほど、履歴書をただ出してくるのではなく、履歴書から相手の気遣いが伺えるかどうかを見ているのですね。履歴書がOKとなった場合の面接についてはどうですか?」
院長先生「面接時間の20分以上前に来た人は全員採用していません。クリニックという少数精鋭で業務を回し、常に時間に追われている環境を理解していたら、20分以上前に来ることは無いはずです。受付でひと言『ちょっと早く来てしまいましたが……』と声を掛けてくれたらまだマシですが、それでも心証はあまり良くないですね」
筆者「そうなのですね!率直にやや厳しい印象を受けました」
ここで筆者からある地元密着型中小企業で実際に起きたケースを紹介しました。それは翌4月に地元の学校を卒業するという学生Aさん(ダメージジーンズ、ピアス、茶髪、挨拶は『ちーっす』)を採用した会社のお話です。この会社の社長は「この子をうちが雇わないと誰も雇わないだろう」「恰好と態度は問題しかないが元気は満点!」と覚悟の上で採用を決めたのでした。言動を一から直さなければならなかったAさんですが、どうも今まで目上の人との関わり方等、何も教わって来なかった(必要性を理解できていなかった)ことが判明。他の職員の方の負担はとてもとても大きかったとのことですが、Aさんの持ち前の明るさと素直さもあり、20代前半になった今では管理職になって活躍し、何より組織力が底上げされたのでした。
院長先生「目から鱗が落ちました。よくよく考えてみたら私が気にしていた点はインターネットで『印象の良い履歴書の書き方』『面接の受け方』等で検索をしたら出てくる表面的なものばかりだ。相手のことを気遣える人を採用していたつもりでしたが、減点方式で求職者を評価している私の方が相手を気遣っていないですね……。私自身が採用に当たりその人の良い面を捜せていなかったと気が付きました。今まで同じ採用方法で行ってきて、結果としてミスマッチが起きているのですから、根本的に『本当に何がこのクリニックにとって大切なのか』を考えた方が良いように思います」
その後、院長先生が本当に目指したいクリニックで働いている人はどんな人なのか、どんな雰囲気なのか根本から見直し、採用における絶対に外せない要素はひとまず「この人ともっと話がしたい、一緒に働きたいと思える要素のある人」となったのでした。院長先生は人を見る第六感が鍛えられると意気込んでいます!
このケース、どのような感想を持ちましたか?
採用を続けていくと「何が正解なのか」が分からなくなり、採用の基準となる条件が気づかぬうちに厳しくなってしまっている組織は少なくない印象を受けています。そして、その基準があるために求職者を減点方式で評価してしまうことで、このクリニックの院長先生のように良い点を捜す視点が抜けてしまうことは大いにあるようです。
新人さんにどんな背景があるにせよ、この組織で働くことは初めてなのですから、この組織における所有スキルがゼロの状態なのは当然です。つまり教えていくというコミュニケーションを重ねていき、新人さんも教育者も共に成長をしていくことになります。「この人なら採用しても大丈夫かな……」と減点が少ないから恐る恐る採用するのではなく、「この人のこの良い部分をクリニックで発揮してほしい!」と加点式で採用した方が、お互いにポジティブな気持ちでお仕事に挑めるような気がしませんか?この機会にぜひ採用基準について振り返っていただけると幸いです。
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